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ツーリングの断片 その3 モノローグ

 見通しのいい道の途中、路肩に止まって休憩する
というのが好きだった。

 過去と未来をむすぶ
ちょうど中間にいるような気がして。
私は過去にもいないし未来にもいない。
自分がこの現在の一点に存在している。
そう感じられた。

そうすると
ヘルメットを脱いだ髪を揺らす風も
その風に乗ってくるほのかな花の香りも
うろこ雲からのぞく陽の光も
今この瞬間にしか感じられないもののように
思われてきたのだった。

記憶に定着しつつある過去でも
自由に描ける未来でもなく
自分から意識しないと
眼の前にある現実を感じることのできない
いまというところで
少し日常とは違うものを感じていたのだ。

私の肉体の外側
無限にある情報を
できるかぎり掬ってみようと思って。


現実を感じる
というのはどこまでいっても
主観から逃れることができず
それを自覚したとき
この世界は主観でしかできていない
という思いにたどりついた。

その主観の世界は誰と分かち合えることもなく
言葉にしてだれかに伝えたとき
それはわたしが感じている世界のほんの断片であって
その断片を
わたしが思う通りに受け取ってくれる人はいない。

走っている私はひとりだ。
ものをおもう私もひとりだ。