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トンネルを抜けると、そこは。

初めて訪れる土地は、わくわくする。肌で感じる気温と、ヘルメット越しに見る景色、その土地のにおい。


10月の中旬。
権兵衛トンネルを抜けて、国道19号をしばらく南下する。交差点を右折して国道361号単独区間に入ったら、見通しのきく道路を少し走らせてもらう。

緩いコーナーを右へ左へ気分よく走る。体温はあがらない。開田はやはり寒いだろうか。落ち葉にも気を付けないといけない。旧道をパスしてトンネルへ。ここを抜ければ白樺の林が迎えてくれる。

初めてこのトンネルを抜けた時の景色が忘れられず、その感覚をもう一度確かめたくて走る。

トンネルを抜けると、そこは。

ツーリングは、その繰り返し。これがやめられないのだ。
なぜ走るのか、へのひとつの答え。


そうだ、ここらでゆっくりおそばを。温かいおそばなら冷えた体にもちょうどいい。そういえば今は、たしか新そばの時期……。

両手両足はコーナーをさばくのにせわしないけれど、頭の中はこんなもの。

バス停を左折して、暖簾のかかったお店にバイクを停める。近くには数人の地元のおじさんたち。どうやら山から戻ってきたところのようで、籠の中にはいっぱいのキノコと山菜。陽気な会話が聞こえてくる。その会話に、こちらも明るい気持ちにしてもらってお店に入る。

こんにちは。


お店の人とバイク乗りとの会話は
「どこからきたの?
で始まる。

そして、
「今の時期はやっぱり新そばですか?
になった。

といっても私はそばにこだわりが無いので、会話を継ぐのに何となくそう言ってみたのだ。新米の香りや味が違うのと同じなんだろうか。こだわりのないモノに対する私の考えはこの程度のものでしかない。お品書きを一通り眺めて、体も冷えてるし温かいのにしよう、と思ったときにご主人が

「新そばはね、やっぱりざるがよくわかるんだよ」

と、心の隙にスッと入ってくるような一言。なんだかそんなのを聞いたような気もする。その一言にぐらり。

温かいそば。
冷たいそば。

胃袋はひとつ。

さて。




*     *     *


今日の行程はこちら。

名称未設定

右側のA地点は伊那市。そこから国道361号、標高を上げて権兵衛トンネルへ。まっすぐのトンネルを抜け、国道19号を下り、また国道361号単独区間。

地蔵峠を抜けて開田高原。静かな秋の開田は少し季節が進んでいる気がした。

トンネルを抜ければ、その度に空気が変わる。秋晴れの下走るのは、何にも代えがたい。ヘッダー画像は晩秋の御嶽山。