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ツーリングの断片 その12 安房峠旧道のこと

朝、松本の宿を少し遅めの6時過ぎに出発。
私はそれまで安房峠の旧道を知らず、
神奈川から日帰りという都合があって安房トンネルばかり通っていた。
初めての安房峠。
さすがに日の出前には危なくて行く気にはなれない。

長野側から旧道へ入る。

温泉を過ぎて、トコトコ高度を上げていく。
途中から路肩が白くなってくるのは霜がおりているせい。
富士山の周りを走っているときもこういうのを見る。
慎重に運転しないと。

山には霧がかかっていて、視界は利かない。
いつでも引き返せるという気持ちを持って、
そろりそろりと登っていく感じ。
…道が凍ってたらアウトだ。


なんとか峠近くまで来ると、霧が晴れた。
山を見上げると一面の霧氷。
枯れ木も山の賑わいというけれど、
その枯れ木は真っ白く氷をまとい、朝日に輝いている。
この景色を独り占め。
バイクを停めてしばらく景色に見とれる。

とても寒い。


走ってきた道は路肩こそ霜がおりていたものの、
路面はかろうじて乾いていた。


山は静かだな、と思う。
そして、風渡る音しか聞こえない山だから、
こういう音はよく聞こえる。 


どういう音?


 ほら、峠の向こうからスクーターがやってきた。
こういうのが一番心強い。
目を見合わせて
「朝からよくこんなトコ走ってるなあ」
と無言の会話をして
お気をつけて、と手を振る。
そしてお互いに
「向こう側の路面は凍ってないんだな」
と確認するのだ。

 岐阜側に下りていくといい具合に紅葉が進んでいて、
いくつかステキな写真が撮れるスポットも。紅葉のトンネルだ。

平湯まで下りてきたらあとはもう「いつもの道」。
この年は、
暖かい陽射しを受けてせせらぎ街道を流した。
両脇の森が赤や黄色に染まっている。

ヘルメットの中で深呼吸をして、
駐車場にバイクを止めて背伸びをして。

郡上で、朝からの道のりを頭の中でトレースする。
こういう時が楽しい。


秋の日はつるべ落とし。
高い空を仰いで家までもうひとっ走り。