見出し画像

地方選挙の選挙区定数は自民党有利に働いているのか

都道府県議会の選挙区は概ね市区町村の境界をそのまま選挙区の境界としており、選挙区の定数は当該市区町村の人口を基に決定されます。

そのため、都道府県庁所在地に代表される都市部の選挙区は定数が大きくなり、逆に、郊外の選挙区ほど定数が小さくなっております。

この現象は、郊外に支持基盤を持つ政党(自民党を意味する)にとって有利であると政治学の世界ではしばしば指摘されています。

なぜなら、定数が1の選挙区(小選挙区)では議席が勝者総取りとなる一方、定数が2以上の選挙区では(単記非移譲式投票(※)を前提とすれば)議席は得票に対して比例的に配分されるからです。

※各々の有権者は1人の候補者を選んで投票し、得票の多い順に所定の人数が当選者となる。落選した候補への票や当選が確定した候補が得た余剰の票が、他の候補に移譲されない投票形式。

つまり、郊外に支持基盤を持つ政党は郊外の小選挙区における議席を独占する一方、もし小選挙区であれば議席を得ることができない都市部でも比例的に配分される議席を獲得することで、全体として実際の得票力よりも多数の議席を得ることができるというわけです。

例えば、典型例として茨城県議会の定数配分と当選者の所属会派を表1に示します。

表1

茨木県議会は定数62のうち42議席を自民党系会派(いばらき自民党)によって占められており、占有率は68%に及びます。

2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での茨城県における自民党の比例代表得票率が39%、茨城県選挙区における自民党公認候補(加藤明良氏)の得票率が50%であったことを考えても、自民党系会派の議席占有率は国政選挙の得票率から予期される割合よりも高いと言えるでしょう。

表1からは、自民党系会派が定数の大きい選挙区(水戸市・城里町、つくば市、日立市)では定数の半数未満となる議席しか獲得できていない一方、定数の小さい選挙区、特に定数1の選挙区議席の殆どを独占的に獲得することで全体としての高い議席占有率を維持していることが分かります。

このような結果になる理由は、各選挙区における自民党の得票力と定数の関係性を分析すれば明らかとなります。

表2は茨城県における各市町村の2022年参院選自民党得票率とそれぞれの市町村が含まれる選挙区の定数を示した表であり、図1は縦軸に定数、横軸に2022年参院選自民党得票率をプロットした図です。

尚、複数の市町村が1つの選挙区に所属する場合があるため、定数の合計が茨城県議会の定数全体と一致しないことに注意してください。

表2
図1

さて、図1に注目すると分かる通り、定数が3以上の選挙区は城里町(赤点)を除き全て自民党得票率40%未満の市町村で構成される一方、定数が1及び2の選挙区の多くは自民党得票率40%以上の市町村で構成されております。

※城里町は定数6の「水戸市・城里町」選挙区に所属するが、参院選当日の有権者数が水戸市226,125人、城里町16,478人となっており、城里町からの得票は影響力が小さい。

この結果、自民党系会派は定数の小さい選挙区で実際の得票力以上の議席を獲得(定数1の選挙区を独占し、定数2の選挙区でも少なくとも半数である1議席を獲得)する一方、定数の大きい選挙区では得票力に概ね比例した議席を獲得することで、議会全体では高い占有率を確保しています。

自民党系会派以外の立場から見れば、定数の大きな選挙区では得票力に比例した議席数しか配分されない一方、定数の小さな選挙区ではそれなりの得票力があるにも関わらず獲得議席は多くて半数(定数2の選挙区のうち1議席)、もしくはゼロ(定数1選挙区)となっております。

まとめると、定数の小さい郊外・郡部・町村部の選挙区で(定数の大きい選挙区に比べて)自民党系会派の候補者が過大評価され、それ以外の会派の候補者が過小評価される選挙制度になっているのです。つまり、都市部に強い政党に不利、郊外・郡部・町村部に強い政党に有利な選挙制度になっています。

もし、全県一区の比例代表制を用いると、それぞれの政党の得票力がそのまま議席数の配分となるでしょう。

あるいは、全選挙区を定数1の小選挙区とすれば、都市部の議席は都市部に強い政党が独占し、郊外・郡部・町村部の議席はそれらの地域に強い政党が独占。中間的な地域の勝敗で過半数の趨勢が決まることになります。

しかし実際には、都市部は大選挙区で比例的に、郊外・郡部・町村部は小選挙区で勝者総取りという方法で選挙が行われており、これはさすがに不公平だといえるでしょう。

他の都道府県の例も見ていきます。

表3は和歌山県議会の定数配分と当選者の所属会派です。

表3
各会派の正式名称は以下の通り
自由民主党:自由民主党県議団
改新クラブ:改新クラブ
公明党:公明党県議団
日本維新の会:日本維新の会
日本共産党:日本共産党県議団
無所属の会:無所属の会

和歌山県議会は定数42のうち28議席を自民党系会派(自由民主党県議団)によって占められており、占有率は67%に及びます。

参考情報として、2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での自民党公認候補(鶴保庸介氏)の得票率は72.1%ではあるものの、この高得票率は対抗馬に立憲民主党や日本維新の会の公認候補が存在しなかったことが原因だと言えるでしょう(次点は共産党公認候補の前久氏で14.6%)。

また、同選挙での和歌山県における自民党の比例代表得票率は36.06%でした。これだけを見ると和歌山県議会における自民党系会派占有率67%は驚異的に映りますが、選挙区では自民党に投票せざるを得なかった分、比例代表では他の政党に投票した有権者もいるでしょう。

尚、比例代表得票率36.06%という数字は自民党の各都道府県における比例代表得票率としては31位であり、(恐らく日本維新の会台頭の影響によって)和歌山県は必ずしも自民党王国とはいえない県になりつつあります。

さて、そんな和歌山県議会の定数配分でですが、定数1の選挙区は4つしかなく、定数1の選挙区が定数(42議席)に占める割合は9.52%と多くはないものの、自民党系会派は定数2以下の選挙区を独占し、定数3の選挙区でも必ず2議席以上確保することで高い議席占有率を誇っています。

その一方で、突出して定数の多い和歌山市選挙区では定数15のうち3分の1に過ぎない5議席しか確保できていないことは注目に値するでしょう。

表4は和歌山県における各市町村の2022年参院選自民党得票率とそれぞれの市町村が含まれる選挙区の定数を示した表であり、図2は縦軸に定数、横軸に2022年参院選自民党得票率をプロットした図です。

複数の市町村が1つの選挙区に所属する場合があるため、定数の合計が和歌山県議会の定数全体と一致しないことには注意してください。

表4
図2

表4及び図2から筆者が主張したい内容は大筋で茨城県議会の項で主張した内容と同様ですが、表3でも確認した通り、和歌山県議会は和歌山市選挙区の定数が15と他の選挙区に比べて極端に大きく、しかも、表4及び図2から分かる通り、和歌山市の2022年参院選比例自民党得票率は僅か30.2%と、和歌山県内でも岩出市の29.7%に次ぐ低さとなってます。

前述の通り、自民党系会派は和歌山市選挙区では定数15のうち3分の1に過ぎない5議席しか確保できておらず、この結果は概ね2022年参院選比例自民党得票率30.2%から推測される数値と一致します。

得票力の高く定数が小さい地域で得票力以上の議席を稼ぎ、得票力が低く定数が大きい地域では比例的な配分で得票力通りの議席を得る。

この構図は茨城県議会と共通ですが、それでは、仮に和歌山市選挙区が分割され、全て小選挙区で選挙が行われていたら結果はどうなったのでしょうか。

和歌山市での2022年参院選比例自民党得票率は30.2%とはいえ、それでも全政党で最高の得票率であり、単純に考えれば多くの「小選挙区」を自民党系会派が制すると予想されます(2番目に得票率が高かったのは日本維新の会で19.8%)。

しかし、和歌山県に限っては他に参照するべきデータがあります。

それは、2023年4月23日に行われた衆議院和歌山1区補選です。

この選挙は2023年4月9日に行われた県議会議員選挙の2週間後に行われており、県議会選挙との連動性は高いと言えるでしょう。

結果は画像の通り、日本維新の会の公認候補が自民党の公認候補を退けて当選を果たしました。

出典
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/touitsu/30/18881/skh52390.html

当選の背景には政党への支持/不支持だけでなく、候補者個人に対する支持/不支持の観点も存在するでしょうし、また、国政と地方政治では有権者が重視する論点が異なっている可能性もあるでしょう。

しかし、和歌山1区(和歌山市、紀ノ川市、岩出市)において日本維新の会が小選挙区を制するだけの得票力を持っているのならば、もし、これらの地域が「小選挙区」に分割されていれば、日本維新の会が優勢な「小選挙区」が少なからず存在し、その「小選挙区」で自民党系会派に勝利する可能性も高かったのではないでしょうか。

(ただ、県議会選挙において日本維新の会は和歌山市選挙区に3人の候補を出して1人が落選している。紀ノ川市と岩出市には候補を擁立していない)

仮に和歌山市と紀ノ川市、岩出市に割り振られている定数合計21を全て獲得できれば、和歌山県議会全体の50%の議席を占有することになります。

しかしながら、少なくとも和歌山市選挙区の定数が15のままではそのような事態は起こり得ません。

それどころか、和歌山選挙区、紀ノ川市選挙区、岩出市選挙区の過半数である、8、2、2議席を日本維新の会が獲得したとしても合計は僅か12議席。

県議会全体の過半数を制するには、定数の小さい町村部の議席のうち相当数を自民党から奪取する必要があり、困難を極めます。

このように、本記事では都道府県議会選挙において都市部と非都市部の定数の差が自民党系会派を利していることについて、茨城県議会と和歌山県議会の例から確認しました。

次項では、より包括的な分析を施した図表を用いつつ、自民党系会派の占有率が低い府県に焦点を当てて議論を進めていこうと思います。

可能であればご支援お願い申し上げます。

有料部分ではお礼の文章が表示されます。

ここから先は

44字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?