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「横浜らしいまちづくりに文化芸術がどう関わっていくか」を自問。創造の担い手と地域社会を繋ぐ架け橋に

 横浜市芸術文化振興財団の職員としてアーティストやクリエイター等を地域社会と繋ぎ、創造性を生かしたまちづくりをサポートしてきた杉崎栄介さん。多様な分野の人たちとの関わりは、好奇心や探究心が刺激され、とてもやりがいを感じたと言います。経験を重ねる中で気が付いたのは、地域の中にある団体や企業、個人など様々な主体が集まって新たな価値を生み出す「協働共創」を中間に立って支えることの面白さ。そうして生み出されたものが関内をはじめとした横浜のまちを魅力的かつ持続可能なものにしています。杉崎さんに話を聞きました。

クリエイターらが参加した創造性のある関内のまちづくり

 横浜市芸術文化振興財団で働き始めて25年になります。2007年から昨年度まで「アーツコミッション・ヨコハマ」という事業の担当をして、文化芸術と社会を横断的に繋いでいくための中間支援をしていました。横浜市が04年に始めた「文化芸術創造都市横浜」という施策の一環としての事業です。創造都市横浜は文化芸術の創造性を市内のさまざまな事業と結びつけて魅力ある横浜をつくる取り組み。まちづくりの中で文化芸術がどう関わっていくのが良いかということを長年考えてきました。
関内では「ヨコハマ芸術不動産」という取り組みをしています。クリエイター等を誘致し、地区内にある空き物件を活動拠点として活用してもらって、まちの活性化を図るものです。その結果、今、関内には多くのクリエイター等の事務所が集まっています。ただ、どの人も立ち上げ時は資金がないので、路面展開は難しくて賃料が手ごろなビルの上のフロアに事務所を構えるんですよ。最近は路面展開できる人もいましすが、それまでは目につく場所に事務所がないので、まちの中にクリエイター等がたくさんいることが周囲に伝わりづらいことが課題でした。そのため、クリエイター等の仕事場を特別公開してもらい、市民が見学してまわることでその活動を知る「関内外OPEN!」や関内桜通りの路上でワークショップなどを行う「道路のパークフェス」など、まちに関わるプログラムを展開しました。関内は建築家やグラフィックデザイナーも多いですし、19年にはスタートアップを支援する拠点「YOXO BOX」もできたので、新たな一歩を踏み出す地になっていると思いますね。

まちに出て人に会い、探究心が刺激される日々

インタビューに答える杉崎さん

 学生時代はオーケストラでチェロを演奏していましたが、その経験の中で感動をはじめ、たくさん得るものがありました。そういうものを多くの人に届けたいと思ったことが文化的な仕事に興味を持った最初のきっかけです。その後、この仕事を続ける理由は日々変化していって、今は全く違う部分に関心をもって働いています。
 私は探究することが好きなので、アーツコミッションの仕事は向いていました。自分は芸術や文化の専門的な仕事をしながらも、全部を知っているわけではないです。でもアーツコミッションであれば、アート、音楽、演劇、ダンスはもちろん建築、デザインと様々なクリエイターに出会えって、その世界を知れます。まちの人たちと関わって、地域社会というものがどうやって成り立っているかということに気づくことができました。多様な業種や部署の企業や行政の方とも仕事をしました。いろんな人に会えて、探究心が刺激されてとても面白かったです。好奇心は子どもの頃から旺盛で、実は小さな頃は恐竜博士になりたかったのが、だんだんとマスメディアに憧れて、広告代理店の仕事をしたいと変化して、結局は今の仕事になったんです。今の仕事は博士のように探究することも、メディアのような編集する業務や、情報発信もしますから、それらがミックスされているところがありますね。

みんなが種を撒きに行きたくなる、良い土壌をつくりたい

 G Innovation Hub YOKOHAMAはファウンダーの相澤毅さんをはじめ、設計に携わった方々もお付き合いがある方ばかりだったので、関係者が集まって作った拠点という感覚でオープニングにお邪魔しました。以来スタッフとも「一緒に何かやれたら」という話をたびたびしていて。今回、財団が携わっている国際的な現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」が良い機会だと思って、Gと同じリストプロパティーズ(株)が運営する「横浜マリンタワー」との連携が実現しました。具体的には6月9日まで、2階ギャラリーでトリエンナーレのテーマ「野草」に基づいた若手作家の個展、展望フロアでは額田大志さん、高良真剣さん、ermhoiさんによる夜景とサウンド・映像によるインスタレーションを楽しめます。横浜マリンタワーは横浜開港100周年の記念として市民の思いが結集して建設された横浜のシンボルです。その独自の文化性や歴史性があるので、そこを会場にするならそういったものにアプローチできるアーティストが良いだろうと考えてお声がけしました。
 東京都内では今、グローバルな企業がたくさんアートスペースを作ってグローバルな作品を展示しています。それは“東京らしい”と感じるので良いと思いますが、横浜がそうなるのは違うな、と。もちろん横浜も昔は港を開いたグローバルな都市でしたし、そのグローバル性を残したいということはあると思います。ただ、ローカルなところからグローバルに到達することが“横浜らしさ”だと感じるので、その過程をきちんと保存、再生していくのがいいと思いますね。マリンタワーはまさにそういう歴史を持った建物なので連携できることが嬉しいです。
 いま、3年に1度開催される第8回横浜トリエンナーレが開催されています。今年はみなとみらいから山下・元町中華街エリアにまでアートを広げようと、地域の人や企業が熱意をもって横浜トリエンナーレを応援してくださっています。今回の横浜マリンタワー特別プログラムもそうですが、私がこれまで関わってきた仕事のアウトプットの楽しさは、様々な主体が専門知識や得意分野を生かして役割を担い、地域課題の解決やまちづくりに取り組む「協働共創」にあると思っていて。その中で中間に立つことが多い自分は、特に立ち位置やマインドセットの作り方がとても重要だと感じています。成功させるためには自然と何かが生まれることを信じて、自分があれこれやりすぎないことです。作物を育てる畑の土のようなものだと良く言っています。いい土だったらみんなが種を撒きに行きたくなりますよね。育てる作物やもたらされる種によって土も変えないといけません。「良い土であるためにはどうしたらいいか」を考えていくと、協働共創は自然と成り立っていくのです。経験を重ねてそういう部分が抜群に面白いと徐々に分かってきたものの、こうして言語化できるようになったのはここ数年。とても奥が深いと思います。

「自分たちの文化は自分たちで作る」ー大いなる田舎まち関内

 関内を一言で表すならグレートローカルですね。私は20代半ばから30代前半まで「横濱ジャズプロナード」に関わっていました。音楽ホールから街中に飛び出すイベントでたくさんの刺激を受けましたし、そこでの経験が今も生きています。当時の事務局長だった鶴岡博さんが関内は「大いなる田舎まち」という考えを持っていました。岸田国士氏の著書『都市文化の危機』の中に、都会は消費地で田舎は生産地というようなことが書かれているんです。鶴岡さんがどういう意味で「田舎まち」と言っていたかわかりませんが、「自分たちの文化は自分たちで生み出していきたい」という生産地としての思いもあったと思います。横浜の都市文化をどう保存して再生していくのかという創造都市横浜の発想においても田舎まちという言葉は合っていると感じますね。鶴岡さんは横浜スタジアムの開設に尽力した方でもありますし、ジャズバーのオーナーでした。野球もジャズは横浜で作られたものではなくアメリカから持ち込まれたものですが、それがまた“横浜らしさ”でもあります。「自分たちのまちは自分たちで作っていく」というマインドセットは今の都会においては減ってきているので、そのマインドを持っていることがある意味田舎らしさですね。
 関内は元々「門」なので、これからの関内にはゲートウェイ機能があると良いと思います。国内外の人たちがここに来れば横浜や神奈川の旬なものを見られるというようなコンセプトのフロアや施設があると面白いですね。例えば石川県の金沢は北陸全体のゲートウェイ機能を持っていますし、九州では福岡がゲートウェイ機能を果たしています。でも、横浜は横浜駅周辺の商業施設に神奈川、横浜土産が少しあるくらいで、新横浜駅にも名産品が揃っているわけではないんですよ。関内に常にその地域の旬が見えるような場が作られたら良いですね。

関内のおすすめスポット…
かんない蕎麦処「利久庵」…親子丼を食べに行くことが多いですが、やっぱり蕎麦も食べたいなと目移りすることも。そんなときは小盛を注文して両方味わうことができます。お酒を注文するとお通しとして出てくる海苔の佃煮がとてもおいしいです!


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