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短編小説 これが惨めだ いつかは勝つ。①②最終回(2120字)

ちくしょう、
帰りの競馬場送迎バスに乗り遅れた。
仕方ない、金が無い、駅までオケラ街道をとぼとぼ歩くか。
この日は特に酷かった。
負けに負けた。
朝から12レース全部、ワイドも単勝、複勝、馬複、3連単、どれも、買う馬、馬券、俺の見染めた馬と言う馬が、スタートして、直線に入って、ゴール前でヘタって、買う馬券、買う馬券、全てハズレ、全部敗け、
ただの一回も当たらない。
どうしちまったんだ、運が無い、裏目裏目だ。
負けず嫌いの俺は、ふて腐れても、もう止めたなどとは言わない。
そのうち運が回って来る。勝つまでやる。
明けない夜は無い。
と考える、だから大やけどをしてしまう。
よくあるパターンだ。
俺は帰り道ぶつぶつ愚痴を言いながら歩いていた。
お兄さん、もう一勝負どう、紹介しますよ。闇カジノ。
金は無いよ、スッテンテンだ。
大丈夫、信用取引ですから、時計、スマホ、カード何でもオーケーです。
気付いた時には、頭に血が登っていた俺は、客引きの後を歩いて、競馬帰り客目当ての飲み屋街のどん詰まりにあるスナツク レバーに入った。
暗い店内に眼が慣れるまで時間が係った。客引きが、そそくさと去ると、
俺は空きのあるカウンター席に腰かけた。
いらっしゃいませ、メニューです。
ここのシステム、説明しますね。
と、フィリピン訛りの胸のデカい小柄な女が話し出した。
お金無い人は、契約書メニューのここにサインして下さい。
好きな所に〇してね、お金、あげるよ、あるね。
俺はバインダーに挟まれた契約書メニューに目を向け、字面を追った。
途中まで読んで、吐き気が襲って来た。ヤバイ死ぬかも。
契約書は俺の肉体の売買契約書だった。
部位        買取価格     
肝臓1/2                       5万円
  1/3                       1万円
腎臓1コ       3万円
髄液1単位      5千円
手小指第一関節    5千円
耳1コ        2千円
眼球1コ       3千円
尻の毛3本(DNA使用含む)2千円(特別サービス価格) 
その他ご希望の部位特価買取致します。
どうぞ、お気軽にお申し付け下さい。
と、ざっと読んだ契約書メニューにはあった。
決まったら、呼んでね、じゃあーね。
俺は、漏らしそうになる位ビビって言った。
すみません。
小柄な女がオーダーを取りに来た。
決まった、何にする。
悪いけど、俺帰る。
小柄な女が突然右手を上げると、坊主頭で無表情の100キロ以上ある大男が現れ言った。
お客さん、負けっぱなしでしょ、勝って帰ろうよ、何か一つ付き合ってよ。
俺は正直、負けたくないと思いつつ言った。
じゃー、尻の毛3本でお願いします。
小柄な女が、契約書を指さして
ここ〇してね。
俺が〇すると、すぐ2千円をトレーに乗せて持って来た。
この時、俺はちょっと勝って無難に終わろうと思った。
カウンターのバーテンが、サイコロが2つ入ったガラス鉢を出して言った。
私がお相手します、丁半でいいですか、賭け金は、お客さんが決めてください、言い値で全部受けます。
俺は
半に千円。
トレーから千円取ってカウンターのガラス鉢の前に置いた。
バーテンは
丁に千円。
サイコロはバーテンが振って入れた。
サイコロはガラス鉢の中で、遊び、ぶつかり、転がり止まった。
⚁、⚅、の丁。
張った声でバーテンが言った。
バーテンが千円回収して、言った。
次は
半に千円。
俺は、また半に残りの千円を賭けた。
バーテンが無言でサイコロを投げ入れた。
賽が止まった。
⚁、⚁、の丁。
また負けた、
バーテンは俺の顔も見ずに契約書メニューを差し出した。
俺は勝つしかないんだと、心に言い聞かせ、メニューの腎臓1個に〇印を付けた。すかさず小柄な女が千円札で三十枚計三万円を持って来た。
俺は半に三千円賭けた。
⚂、⚄、の丁。
アドレナリン出捲りの俺は
半に一万円。
バーテンはニヤリとして賽を振った。
⚂、⚂の丁。
俺は負け続け半に張り続けた。
肝臓1/2、眼球1コ、耳1コ、売れるものは売った。
小柄な女が、哀れに思ったのか、言った。
お客さん、丁しか出なくて変だと思わないの。
俺は、半で勝ちたいんだ、
バーテンの手がいつか狂う時が来るさ
とニヤリとして答えた。
小柄な女は呆れて消えた。
賭け金は、負けを取り戻そうと、どんどん上がっていった。
そして負け続けた。
小柄な女が来て言った。
お客さんもう売るものないよ、契約書メニューを見て、手術が上手く行っても、このままだと半身不随だよ。
もう一勝負させてくれ、俺はポケットに手を突き込み小銭入れを取り出した、中から百円玉、一円玉、十円玉、五十円玉を取り出し、一枚ずつカウンターに並べて行た。合計二百六十四円あった。
俺は力ない声で
半に二百六十四円。
俺の頬からぽとりとカウンターに一滴、涙が落ちた。
バーテンは、苦笑して賽を投げ入れた。
⚀、⚁、の半。
やっと勝った。
その後、精算のため外国に連れて行かれた俺は、半身不随でなんとか生き残り車椅子で帰国した。
今は、お国のお世話になり施設で暮らしている。
車椅子の俺は、片腕、片目で、スポーツ新聞を広げて言った。
介護士さん明日は有馬記念だな。
                おわり。



 









       








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