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夏祭りの余韻 2023年7月23日プロ修斗後楽園ホール大会 新井丈vs安芸柊斗

昨日の修斗のことを少々。

とにかく凄い大会だった。あれだけのカードが並べばそうなることは、当然わかっていたのだけど、そこをさらに超えてきた。

良い試合、凄い試合が多かったが、それらを振り返ると、入場から試合後のマイクまで、ぎゅっと時間が凝縮されたような感覚。それでいて、試合中は、応援する選手が攻めて攻められて、そのたびに時間が長く感じられたり、短く感じられたりする矛盾した感覚をもはらむ。
背中を押すように、選手の名前を呼ぶ。倒せ、極めろと叫ぶ。立ち上がりたい衝動に駆られ、思わず拳を突き上げる。

昨日の修斗を観戦できた人は、応援している選手の勝ち負けはあれど、皆、面白いと思ったのではないだろうか。本当に良い興行だった。

今回は、その中から1試合だけ振り返りたいと思う。取り上げるのはメインのストロー級チャンピオンシップだ。

新井丈というとてつもないドラマ

はじめに書いておきたい…懺悔しておきたいが、自分は、新井丈という選手を見誤っていた。その人間性を測るだけの器が自分になかった。申し訳ない。

率直に言うと、新井選手はインフィニティリーグに出場した2018年の段階で、もうここまでの選手だと思った。
だって、グラップラーがストライカーを攻略する教科書のような負け方--組まれ、寝かされ、締められる--を続けて4連敗。余りにまっすぐすぎる打撃一辺倒のファイトスタイルは、現代MMAにおいては欠けているものが多すぎると思った。

実際、勝てない試合が続いた。その数、海外の試合を含めて実に9連敗。
負け越しどころではない。普通に考えたら、格闘家をやめてしまってもおかしくない。
だが、それでも自分を信じて戦い続けた新井選手の凄み、また、それを評価して使い続けた修斗の熱意。これがあって、新井丈というとてつもないドラマとなったと思う。

新井選手は、2019年の大竹選手との試合に勝利してから、連勝街道に転じ、かつて苦しめられたグラップラー、それも強豪の飯野選手、木内選手にも勝利。この時、「これは本物だ。」と気づき、自分の選手を見る目と下した判断が完全に間違っていたと思い知らされた。本当にごめんなさい。

そして、ストライカーの元王者黒澤選手、チャンピオンシップで猿丸選手をも倒し、もはや相手のスタイルなど関係のない、自分だけの「新井丈スタイル」が完成されたと思う。この間にHEARTSへの移籍などもあり、体も見違えるようにたくましくなった。
さらには一階級上のフライ級にも挑み、見事、当時1位の関口選手に勝利。「事実上の」2階級制覇を成し遂げた。
まっすぐすぎる新井丈は、僕らの想像以上に太く、強く、まっすぐだった。

そして、今回、王者の責務である防衛戦に挑む。
勝てば10連勝。かつての9連敗をひっくり返す成績となる。

改めて書くが、これは自分が間違っていた。素直に認めざるを得ないし、喜んで訂正したい。
新井丈。あなたは、修斗が誇るべき立派な王者だ。

安芸柊斗という修斗の希望

挑戦者の安芸選手。
本人がどう思っているかは分からないが、個人的には安芸選手の評価には、大いに不満があった。過小評価されている、と。

安芸選手は今時の若者のようなクールな外見に、獰猛なファイトスタイル。
ジャブで倒せる。カーフで倒せる。組んでも、速く、絡め取るような寝業は見せる機会がないだけで、むしろ脅威といって良い。

安芸選手の名前が広く知られたのは、アマチュア修斗の頃。3地区選手権を制する活躍を見せ、翌年プロデビュー。スーパー高校生として話題を呼んだ。
プロで3連勝後、遂に後楽園ホール大会進出。そこで、木内選手と対戦するが、持ち味を発揮できずに敗れると、フライ級での試合を含めて、フィジカル負けするシーンが見られて連敗。傍目に見て、やや壁に突き当たった感があった。

そこから連勝を重ねて復調するも、世間的に今ひとつ、その強さがきちんと伝わらず、正当な評価を受けていなかったと思う。ROAD to ONEで山北選手に痛い敗北を喫したことも影響していたかも知れない。
関係者の間では、「安芸柊斗はヤバい」というのは共通認識だったと思うが、東京中心のストーリーライン視点のファンの中では、香川、大阪での勝利でランキングが上がっても反応が薄かったのが残念だった。
そんな中、ONEから戻ってきた澤田選手と対戦。安芸選手は、わかりやすい強さのガイドラインとなるこの澤田戦も快勝。いよいよ、ファンの間でも、安芸選手の実力を広く知らしめた試合と言える。

やっと来た。そう思った。

「地方から世界を目指す」は、言うは易く行うは難し。理想はそうであっても、実現はなかなか難しい。プロの試合は興行だ。経済的な観点から制約を受けざるを得ない。地方在住の選手にとって、東京の試合に出続けることは簡単ではない。
しかし、修斗には、そこを補う仕組みがある。各地域にプロモーターがいて、地元選手の試合機会を提供すべく各地で大会を開催している。そして、四国では、TNSがFORCEというブランドで香川大会を定期開催している。
また、そもそも若くして成し遂げたアマチュア修斗での活躍は、西日本ではJr.BORDERに代表されるように、キッズ修斗、ジュニア修斗が盛んで、近県で試合が行われ、子供の頃から修斗に触れ、なじみ、経験を積めたことが大きいだろう。
そういう意味で、安芸選手は、まさに、この修斗のプロモーターシステム、キッズ・ジュニア育成制度が産んだ傑作と言って良いと思う。

安芸柊斗というネイティブMMAファイターは、生まれた地元で育ち、刀を研ぎ続け、全国で正当な評価を得て、いよいよ、今回は修斗の頂上にリーチする。本人の才能、努力、結果、評価、そして多くの支援…武器は揃った。さぁ、勝負だ。

安芸選手については、他にも語るべき話題は多いのだけど、とりあえずこの視点を大事にしたい。

チャンピオンシップの結末

試合については見てもらうのが一番だが、凄まじかった。
試合時間はわずかに5分足らずだが、新井丈選手、安芸柊斗選手ふたりとも持ち味を発揮。互いに倒せる武器を持つもの同士による期待に違わぬ試合に、会場は熱狂した。

新井選手が距離を詰め、KO勝利を収めたが、その戦いぶりは、ある種の狂気を孕む。被弾しても止まらない。意識ある限り、新井選手は相手に向かって前に出るだろう。安芸選手は、それを断ち切ろうと初手から飛ばした。組んで、膝を当て、ジャブ、カーフ、そして肘も見せ、序盤の優勢を勝ち取る。
しかし、新井選手が少しずつ盛り返し、距離を詰め、痛烈なボディ、フックと安芸選手を打ち崩す。なおも反撃を試みる安芸選手だったが、やはり新井選手の圧は高かった。
この魂を削り合うような試合は、圧縮された時間の中で、第1ラウンド終了のゴングを待たずに結末を迎えた。

徳島から来た大応援団は静まり返り、新井選手のサポーターは歓喜に包まれる。残酷だが、どちらかがそうなることは予め定められていたこと。今回の天秤は、新井丈選手という希代の傑物に傾いた。

しかし、安芸選手も新井選手から試合の記憶を奪い取るほど打ち込み、新井選手もそれを評価し、徳島の大応援団を讃えた。
先ほど残酷と書いたが、最後は王者が美しく幕を引いてくれたと思う。

改めて、新井選手は修斗が、修斗ファンが心から誇るべき王者だと言いたい。育ててくれた団体への筋を通し、王者として防衛戦という責務もきっちり果たしてくれた。何より、今、一番面白い試合をしてくれる選手である。
そして、安芸選手もまだ心は折れていないと言う。また応援団を引き連れて、修斗のトップを狙ってくれるだろうし、もっと先を、もっと上を狙ってくれると思う。

なお、新井選手は、この勝利を土産に、二階級同時制覇不可という修斗のルールを変えようとしている。最軽量級にして、ここまで存在感の大きな王者は他にいない。記憶にも記録にも残ることだろう。

終わりに

本稿の骨子は大会前に書き綴っていたものだ。早く公開できれば良かったのだが、主に執筆者の能力の不足により断念した。こういうのはアイデアは出すから、誰か他の人に書いて欲しいというのが本音だ。

また、大会の記録としては、各試合をレビューするつもりだったが、メインの新井選手vs安芸選手をフューチャーすることにした。これも、主に能力の不足によるものである。
ただ、誰かがまとまって書き残すことが大事かなと思うので、恥ずかしながら、書き留めた。本当は、取材して、ライターさんがまとめてほしいところ。

修斗が誇る偉大な王者、新井丈選手と、修斗のシステムが生んだ傑作、安芸選手。二人のこれからに期待したい。

おまけ

【密着】THE1STORY〜安芸柊斗〜「徳島への想い」


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