学習出版:執筆の7ステップ (4)事実
教育現場での学生出版として、私のゼミではこれまで3冊26人による本を出しました。TOEICスコアアップ方法がテーマです。3年の実践でわかってきたコツ、特に文章に個性や強みを出すための7つのステップをまとめています。
今回は4番目のステップです。説得力を持つ文章を目指します。読み手はあなたの文章を褒めてくれるわけではありません。反感を持つ場合もあるし、ただわかりにくいと言って放り投げてしまうこともあります。あなたと全く縁のない無関係の人に説得力を持つためにはどうしたら良いのでしょう。
4.1. 一番言いたいことを言ったあと、どうする?
私たちのプロジェクトでは前回までに2行のメインアイディアについてまとめました。次に、メインアイディアに続けて何を書くのかを提示します。結論は単純。メインアイディアをいうための理由や事例です。 これをサポートと呼びます。
サポートを書くために考えるコツは一つだけ。事実を書くこと。
「事実」について、私は指導教員として特に力を入れないといけない点だと常々考えてきました。「事実」にこだわるために、一瞬、脱線します。私が大学院に通ったカナダでは、小学校の定番授業で、文を見て「事実か、意見か」を区別するトレーニングを行っているそうです。
https://mediasmarts.ca/sites/mediasmarts/files/pdfs/games/cybersense_guide_2013.pdf
一方、日本の義務教育では、事実と意見の違いをこのように意識してトレーニングする機会がないので、誰かの意見なのか、誰が見ても同じ事実なのか、あまり注意しないで文章を読み書きしてしまうことが多いと思います。
4.2 事実を書くための三つ
原稿準備で、独りよがりをなくすために挑戦してきたのは次の3点です。
(1)事実と意見を区別する
(2)語るより見せる
(3)単なる思いつきと意見を区別する
以降、一つ一つを補足していきます。
4.3 「事実と意見を区別する」とは
小学生のようなドシンプルな練習を私の講義ではよくやっています。次の三つのセンテンスは事実ですか? 意見ですか?
・これは赤い。
・これは大きい。
・これは素晴らしい。
「赤い」は、厳密に言えば人によって違いはありますが、概ね、誰がみても同じ結果になるとして良いでしょう。わかりやすくいうと、反対意見を出せません。それが事実です。
「大きい」は、数字で言わない限り、わかりません。比較対象によっては小さいかもしれません。見る人によって変わります。「素晴らしい」は典型的な主観です。見る人によって素晴らしいかどうかは変わるし、反対意見も出されそうです。
筆者が文章全体に意見を書き連ねると、どうなるでしょう。読者にとっては見方が違ったり、価値観が違ったりすることがあります。根拠が曖昧に見えます。だから説得力がなく見えるかもしれません。「大きい」は、数字で言わない限り、わかりません。比較対象によっては小さいかもしれません。見る人によって変わります。「素晴らしい」は典型的な主観です。見る人によって素晴らしいかどうかは変わるし、反対意見も出されそうです。
筆者が文章全体に意見を書き連ねると、どうなるでしょう。読者にとっては見方が違ったり、価値観が違ったりすることがあります。根拠が曖昧に見えます。だから説得力がなく見えるかもしれません。
上記の練習はまた、次のように言い換えることもできます。
形容詞・副詞はできるだけ避けること。形容詞・副詞は人によって捉え方が異なりやすいからです。
4.4 「語るより見せろ」とは
原稿に「形容詞が多すぎる」というコメントを返すと、学生の反応として、「辛かった、悲しかった、というような形容詞はダメなのか? 私の思いを文字にしたいのに」と途方に暮れてしまうことがあります。
大丈夫です。そういう感情、ちゃんと伝え方があります。
読者は事実を見て、その結果、自分自身で感情を持ちます。筆者が感情を吹き込むのではなく、読者に自分自身で自由に感情的になってもらうのです。
だから、語るのではなく、見せる。それが鉄則です。
例えば次のような文章。
世界一住みやすい街ランキングでトップを取ったこともあるカナダのバンクーバー。そこで生まれ育った50代の白人男性は足が不自由で杖が欠かせない。「無職なのは足のせいだ」と言う。市中心部にある「ホテル」を住まいとしていて、福祉で生計を立てている。彼の住まいは「ホテル」とは名ばかりの築121年の建物である。ホテルの廊下の白電球は切れているものもあり、昼間でも薄暗く、清掃された形跡はなく、カーペットはあちこちにシミがある。その廊下を一歩進むたびに木の板が音を立てる。各部屋から午後のトーク番組の音が漏れてくる。この「ホテル」の利用者は彼のような福祉のサポートを受けて定宿にしている人が9割以上を占めている。市の福祉局は「住民の大半がヘロイン中毒者だと推察される」として、ホテルの再建を関係部署と調整している。
以上は、事実しか書いていません。何か、感じますか?
事実を淡々と連ねていくと、ロボットのような文章だと感じる人も多いと思います。でも、学生に念押しすることは、事実を見てどう感じるかは読者の自由ということです。それを悲しいだの、難しいだのと書くことは押し付けです。以上は、事実しか書いていません。何か、感じますか?
事実を淡々と連ねていくと、ロボットのような文章だと感じる人も多いと思います。でも、学生に念押しすることは、事実を見てどう感じるかは読者の自由ということです。それを悲しいだの、難しいだのと書くことは押し付けです。
4.5 単なる思いつきと意見の違いとは
以上は事実にこだわりました。では、どうやって意見を書いたらいいのか。どのような意見の書き方が効果的なのでしょうか。
簡単です。意見は、事実に基づく。「XXXXという事実があるので、私はXXXだと思う」という方式で述べます。
つまり、読者の誰がみても同じ事実=反対意見のない事実=を根拠にします。根拠のない意見はそもそも意見ですらなく、思いつきと言うべきでしょう。「XXXだと思う」と書けば、それは意見のように見えます。が、見えるだけで、実際は、ただのひとときの思いつき、ただの気分。
残念、あなたの喜怒哀楽はあなたには重要でしょうけど、他人にはどうでもいいし、伝わらないし、共感できないことです。終了。
4.6 まとめ
事実と意見、普段はあまり考えないことを繊細に考えると、少々、描きづらくなるかもしれません。ですから、ゼミでは単純にこうまとめています。
事実を根拠に、意見を書く。
ちなみに、文字数で、事実:意見=9:1ぐらいで十分です。結局、言いたいことはメインアイディアの二行だけですから。
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