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学習出版:執筆の7ステップ (7)客観

教育現場での学生出版として、私のゼミではこれまで3冊26人による本を出しました。TOEICスコアアップ方法がテーマです。3年の実践でわかってきたコツ、特に文章に個性や強みを出すための7つのステップをまとめています。


7.1 うっとり防止

7番目のステップでは、自分を客観的に捉えることを目指します。私たちは地方の名もない大学ゼミ。自分たちがさも成功体験者かのように独りよがりに執筆することのないよう、敏感にしてきました。書くための最終ステップとして、ここまでじっくり考えてきたからこそ起こる大惨事があります。

書いているうちに自分のことをじっくり考えているうちに、いつの間にか頑張った自分にうっとりしてくることです。褒められて伸びるタイプと自称する人、うっかり自分が自分を褒めてしまうこと、あるんじゃないでしょうか。

でも、読者は情報を知りたいから読むだけで、あなたに興味はありません。うっとりした文章を見た読者は、凄いなあという共感や尊敬より、むしろ、鬱陶しい人という冷めた批判を感じるかもしれません。

じゃあうっとり防止にどうしたら良いのか。

考えるコツは、自分の声ではない声を入れる。それがゼミでの結論です。

そのために一つ、正解などないことを質問します。以下、ある文章の結末部分を紹介します。どう思いますか?

私は美しい摩天楼を見下ろしながら、一人、ゆったりと達成感を味わっていた。たくさんのビルから駆け抜けてくる風が心地よい。ようやくここまでだどりついたのだという思いを噛み締めた。両親の顔がふと思い浮かぶ。笑顔になっている自分がいた。

私は、これ、最低だと思います。好みの問題ですが、私にはこれ、無理です。なぜそう思うのか。書き手がうっとりしていて気持ち悪いからです。主語が全部、自分です。「風が」と書いていても「心地よい」と結局自分。「自分がいた」という主語述語は究極に自分だけの世界です。

ただ、これがすごく好きだと思う人もいるはずです。本当に好みですから。書き手と読み手の価値観が一致すれば良いのです。が、世の中、同じ価値観で読んでくれる人なんてほぼいない。最初のステップで書きました。多くの人はあなたの体験に興味を持つほど暇じゃありません。最後のステップはそこへ戻ります。

7.2 うっとり防止、3つのポイント

うっとり防止の方法を三つ上げます。

(1)セリフ

(2)引用文献

(3)数字

7.3 セリフを入れる理由

気づけば自分のひとり語りになっているとき、あえて誰かのセリフを入れます。例えば上記の私が嫌いな文章で「両親の顔がふと思い浮かぶ」とあったものは、

父は「いつか摩天楼を見てみたいなあ」と言っていた。

就活で成功したという話を書きたければ、人事部長が「XXX」と言ってくれた、のようなセリフで紹介できます。もし、そうではなく、「私は人事部長に評価された」と書くと、とても自惚れた人になります。自分で言うな。っていうか本当にそう言われたのかもはや怪しくなる。ちょっと自画自賛かなあと思うような場面でも、セリフを入れるだけで冷静さを保てることもあります。次のように。

 就職活動の面接においても頻出だった質問があります。
 それは、「君の英語スキルは弊社では生かしきれないかもしれないが、大丈夫?」というものでした。私は、面接官の前で英語を話したわけではないのに、TOEICのスコアによって英語ができる人間だと認めてもらえることが多々ありました。それどころか、英語を日常的に使う会社ではなくていいのかと心配されたのです。

この文章の書き手は普段とても謙虚な人です。でも、「就活でTOEICは活かせる」ということを言いたくて、「高スコアのおかげで4社から内定がもらえた」という実例として、面接で褒められた経験を盛り込む必要がありました。そこで、「面接でTOEICの高スコアが評価されました」などと自分で言うことを回避して、書き方には随分注意していたようです。

7.4 引用文献

自分が書こうとしていること、例えば、ある勉強方法の効果や賛否などはもうすでにどこかの誰かが書いたはずです。もし、あなたが言うことが人類第一号になるなら、素晴らしすぎて電子書籍レベルにとどめるべきではありません。おめでとうございます。国民栄誉賞を狙いましょう。

結局、自分が言おうとしていることは誰かの焼き直し。それで構いません。そこで引用です。

特に専門家のセリフを使うと、個人的な体験が一気に普遍性を帯びます。また、自分の考えが他でも書かれているということは、それだけ説得力が強くなります。例えば、「音読を頑張った」だけではなく、「音読はXXXによると、XXX という面で効果的である」のように。他にも、「勉強時間を細かく区切った」だけではなく、「25分程度の短い時間で集中することはXXXによると、XXX という成果が書かれているから」などのように。

過去事例から言える最大のコツは、ネットに頼らないということです。このデジタル時代にナンですが、文献を図書館で見つけてください。大事な情報はタダですぐには見つかりません。重要な情報は、有料、得るものが難しいものです。この部分で手抜きや楽は絶対にしないように! 無料サンプルぐらいで済ませれば、その価値しか生まれません。Googleで上位ヒットするようなものはしょせん無料サンプルだらけ、価値ある情報は一冊2000円の本の中にあるとは思いませんか。

7.5 数字

数字を盛り込むと、客観的な表現が一気に簡単にできます。全ての段落に少なくとも一回の数字を入れることを意識するぐらいがちょうど良いかと思います。

上述のうっとり事例でも数字は使えます。「たくさんのビル」はいくつぐらいなのか。両親は何歳なのか。何時ぐらいに、私は何分ぐらいそこにうっとり佇んでいるのか。


まとめ

これで7つのステップを網羅してきました。

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学生に連呼していることは結局こういうことです。

いかに心を込めて頑張って書いても、自分の頭だけで考えて自分のことばかりダラダラ書いていたらきっと独りよがり。読者はあなたに興味を持ってくれません。

この点さえ、気をつけていれば、きっと文章を書くことで多くの発見があるはずです。きっと誰かの役に立つはずです。文章は時間も空間も超える力を持っています。そんな力を手にすることの喜びを感じてもらえればと思います。

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