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くたくたに疲れ果てようとも(5)

限界

長男には、塾の話にとどまらず、もう親の頭の中は常に警報が鳴りっぱなしで、しんどいのだと話した。

私が疲れてダウンしていた時、夫からは、「全てを真正面から受け止めるから辛いよね」と慰められたのだが、実際限界を感じた日があった。ある日、夜中に目を覚まして、寝付けないままに長男のことを考えた事があったーー今日もまた同じ事が繰り返されるとして、その際に怒らないためにどうしたら良いのかーーすぐに長男のいつもの不満そうな態度や屁理屈を想像し、難しいと思った。

朝起きるにはまだ早かったが、寝ている長男を起こし、本気で話を聞いてくれと頼んだ。普段の長男は、話を聞きながらも自分にも言いたいことがあると言いたげな、どこか納得がいかない様子をすることが多かった。しかし、寝ぼけ眼の長男は、聞いているだけでも精一杯、不服そうな態度を取るパワーもなかった。

長男からのネガティブな反応がないことは、話している最中に私の中で怒りを全く誘発しなかった。全くもって怒りが沸かないというのが意外すぎて、予想外に良い方法に出会った感覚だった。ただあまり頻繁にやるべき事でもない。

この日長男には、これまでの10年間で親の忍耐力を使い果たしたことを自覚し、これから来るであろう反抗期については細心の注意を払って絶対に出さないでくれと頼んだ。もう冗談ではなく、それを言わなければいけない程に親は疲れていることも正直に伝えた。今は我を通している場合じゃない、このまま休みなく反抗期なんぞに突入されたら耐えられないと。

本当は、「あなたのことを大切に思っているのに怒らなくてはいけないのが辛い。お母さんも人間だから怒ってしまうこともあるんだけど、あなたも辛いことがあるなら話してくれる?」と言える方が良いのだろう。

これは私が相談センターに子育てが辛くて本人にもそう伝えていることを話した時にもらったアドバイスだ。辛いという事の伝え方は難しい。そもそも伝えなくて済むなら伝えない方が良いだろう。伝え方次第では長男がより頑なになったり、自己肯定感が下がるリスクはあると思う。それを分っていても言わずにはいられない状況がわからないか?と長男には問うていることになる。

親としてしんどいのは、何度も何度もやめてくれとお願いしたり、やって欲しいとお願いし続けていることについて、一体こちらの気持ちをどう思っているのかと、ないがしろにするにも程があると感じることなのだ。一つ一つのきっかけは大したことではない。

親が注意した際に、長男の態度にメリハリがあって、非を認める時と譲れない時があるならまだ分かりやすかったのかもしれない。親から見ると反省すべき時に反省せずに屁理屈を言うために、結局親は対抗措置として塾の送迎をしなくなったり、遂には受験を再考するぞと言う事態になっている。

このような親子関係は望んでいないのに解決出来なくてまいってしまい、怒りばかりが増す日々に私自身がまいってしまった。気持ちを鎮めるために初めて漢方薬を試すことにした。効くのかわからないが、少し効いているような気もする。

総合的な辛さには、塾の大変さ、長男の特性、親も長男に対しては頑なになってしまったことなど、様々なことが複雑に絡まりあっていると思う。親が直接問題を解決しようと思うと、どうしても次第に長男を説得するような形になり、この説得が親がやると長男の心に響かないという現状がある。

逆に、子供をありのまま受け入れる等々、親の側が対応する方法もあることは分っているが、一通りやってはみたけれど上手くいっていない。これに鑑みて、改めて第三者の助けを借りるべく、担任の先生、スクールカウンセラー、居住地の子育て相談、他にも何箇所か相談するため動いている。長男にとってもその方が良いだろうと思っている。

塾・受験の話に戻って、こちらは大変であることは間違いない。しかし親が長男と物理的に距離を置く必要がある際には、今塾が最も利用しやすい場所であることも間違いない。先生を慕っている長男を見ても、現在の塾は長男には合っているのだろうと思う。また塾が無く、長男が褒めてもらえる場所が無かったらとも思うと、それはそれで大変だっただろうと思う。親も先生に相談したりと、子育てを助けてもらっていると感じる時もある。

親にとっては、塾は毒でもあり薬でもあるのかもしれない。今の塾だからなのか、他の塾に行っていてもそうだったのかは分らないけれど、塾には強い信念があり、それが強ければ強いほど、また子供の方にも特性があり一筋縄ではいかない場合、その間で調整をしなくてはいけない状況は思った以上に親の負担になっているのかもしれないと思う。