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長男はどこまでも長男だった(2)

教育委員会と戦った

これもカウンセラーから聞いた話になる。長男は学校から支給されたタブレットPCで教育委員会と戦った。ブロックされたサイトを突破する方法を見つけては、またブロックされ、ということをしていたようだ。また、その方法をクラスメートにも伝授していたらしい。

私としては、長男がそこまで高度なことができるとも思わないため、長男がアクセスしたサイトを検知した教育委員会側がブロックしに行っているようなパターンではないかと思っているが、詳細はよくわからない。

カウンセラーの見解では、タブレットPCというせっかく便利なものがあるのに、それをわざわざ不便にしようとしている教育委員会に対して長男は反発せずにはいられないのだろうと言っていた。

カウンセラー:あなたハッカーみたいね。
長男    :はい、僕はホワイトハッカーです。
カウンセラー:ホワイトかブラックか決めるのはあなたじゃないでしょ?
長男    :教育委員会から見たら僕はブラックだと思います。

カウンセラー:あなたせっかく見つけた方法をお友達皆んなに教えてたら、すぐにブロックされてしまうんじゃないの?
長男    :皆に教えるわけじゃないです。教えて欲しいって言って来た人にだけ教えてます。
カウンセラー:あなた商売やってるのね。

長男の目的からして、公の場で問題になるようなサイトには行っていない。ここだけは私からも直接確認している。子供専用サイトにしか行けないと著しく行動範囲が限定されるようで、そのように管理されたり制限されるのがとにかく不便だし嫌なのだろう。それで思うようにはさせない、と対抗していると見た。

カウンセラーからは、悪事は悪事かもしれないが学校の範疇のもので、これを知ったからと言って管理職に伝えなくてはいけないとまでは思っていないと言われている。あまりイタチごっこが続くようだと親から一言長男に言った方が良いかもしれないとは言われている。

当初カウンセラーから聞いた時は笑い転げながら聞いていた。こういった長男の行動について、親も心に余裕がある時はある種の笑い話として捉えることができる。しかし、これが過去に何度となく苦しめられてきたパターンであることを思い出すとき、とても気分が塞ぐのだった。

人を不快にさせるということと切っても切り離せないのだ。そして度が過ぎると結局尻拭いをするのは親になる。長男にはこの辺りまで考えて、これ以上親を振り回すようなことはしないでくれないだろうかと叫びたくなることもあるのだった。

この気持ちは満員電車の中で泣き叫ぶ赤ちゃんを抱いている親の気持ちに近いかもしれない。電車内で回りが迷惑そうに思っている空気を感じると、親は焦ってどうにかして子供を泣き止ませないといけないと思うようになる。しかし何をしても泣きやんでくれないと、親のイライラの矛先が赤ちゃんに向いてしまう。

赤ちゃんが泣くのは仕方が無い。では長男が打倒教育委員会と刃向かうのは仕方が無いと言って良いのだろうか(もう疲れてしまって考えたくもない)。

ただ、憔悴しきった親が穏やかな気持ちでいられるか否かは、周囲の受け止め方にかなり依存する。大らかな気持ちでの受け止めがあれば、状況が良くなる可能性は大きいだろう。長男も、あなたの気持ちもわかるから、と言われれば泣き止む子なのかもしれない。わからない。

権威相手に頭をフル回転させた

長男と話していると、権威に対して不信感を持っているのだろうなということが伝わってくる。小学校にも序列があって、上の方に〇〇先生がいるが、長男は以前、「〇〇先生は、下とか横から見ちゃいけないんだよ」と言っていた。ではどこから見れば良いのかと訊いたら、相手が上から見下ろせないように、逆に自分が上から見る状態でないと話してはいけないのだと言っていた。

だから朝会が嫌いらしい。朝会では〇〇先生は高い台の上に立つ。しかし、そんな〇〇先生の承認をもらわないと実行したいことが実行出来ない場面も多い。例えば、年に1回図書室の本をリクエストする際には、必ず〇〇先生の許可が必要になる。

長男は本が好きであるため、大量にリクエストを出すが、その際に自分が購入したい本ばかりをリストにしたら即却下されるに決まっているため、所々に〇〇先生の好みそうな伝記やまともなタイトルの本も入れて本命の本をうまく紛れ込ませるようにしたのだと言っていた。作戦は成功したらしい。

因みにリクエストしたのは、クラスメートと貸し借りしている本を中心に、自分だけではなく、クラスメートも喜ぶ本をリクエストしたと言っていた。『人狼サバイバル』というタイトルもあったが、確かにタイトルだけだと〇〇先生は眉をひそめるのかもしれない。

こういった知恵でスマートに対応できるなら、もっと他の場面でもうまく対処してほしいと思う。大変な思いをするのは親ばかりな気がしてため息が出ることも多い。

明るい話で行こうと思っていたが、鬱屈としてしまった。社会規範から外れ、権威を好まない長男の性格を思うとき、中学は間違っても品行方正で優秀なエリートが揃う所に行ってもらっては困ると思うのだった。親が持たない。長男みたいなのが沢山いて(そんな学校誰も行きたくない?)、そう簡単には退学させられない学校を探している。