第二次予備校 春期講習(続)

講習の最終日の英語

晴れて4月1日。世間はエイプリルフール。そして朝方見たTVではフレッシャーズの特集が放映されています。皆黒のリクルートスーツです。

「22年間、育ててくれた親に感謝し、晴れて社会人として生きていきます!」

まるで入学式の総代のような読み上げをする若いサラリーマンがいました。

(この不景気の中、大変立派だよなぁ。)

この頃、平成不況やアジア通貨危機による消費税アップだったり、不協和音をあちこちで聞こえるようになります。私のいた高校は、昭和の終わりですら就職に来る求人が1300社。それが平成一桁年代の終わりだと108社そうです。1月の進路指導会の時に就職課の先生が、こんな話をしてきました。

M先生「こんな不景気ですので、仮にトラック運転手を目指したい人は、108社の内5社しかありません。」

「ちなみに去年運輸業界に入れたのは希望者5人の内0でした。」

「普通科の就職は縁故採用が特に大きい。出来るなら違う進路を目指すのも有りです。」

遠回しに専門学校や大学を経てから就職しなさいと言っているようなものでした。

まだまだ午前中は花冷えがする春の真っ最中。そんな場面を思い出しながら、予備校に向かいました。3日前の初日と違って慣れてきたせいか足並みが軽いのを覚えています。

最終日は、午前10時開始より30分前に来ました。今日は、英語の確認テスト、現代文の論述問題、古文と漢文の活用法の暗記テストが行われるからです。

結局、体験入学というところで初日はゼロクラスでしたが、講習中は基礎クラスに変わらず居残りました。途中から変えても新しく学ぶ事も多いので、効率が悪いからです。

5分後、定時制に通うギャル男のO君が御出ましです。

O「あ、やっぱ早く来てたか。テスト有るもんね。」

O君は、一度私立高校を1年生の頃辞めてそのまま定時制に通っています。昼間はアルバイトしていたそうですが、この4日間はオフにしたとか。彼女さんも、少し遅れて入ってきました。彼女は、Cさん。彼と違って中学卒業後から定時制に通っています。中学の頃は、途中から不登校になってしまい中学レベルの勉強から始めているとか。

C「やっぱり遊んできたツケがいま来てるのかな笑」

「昼間バイトだから学校夜だし授業中寝てるから。」

我々の全日制と違って、夜の人達は苦労が多いようです。授業開始10分前になると、ガングロギャルのTがやってきました。

今日は、厚底ブーツを履かずにミュールでミニスカートを履いていました。身長も高い子なので足が長いです。

T「おはよ。ねえ、テスト勉強した?」

「宿題のあそこ、あたしわからなかったから教えてよ。」

ふと私の持っているプリントを見つけて隣に座ってきました。どうやら、3日目に習った現在進行系の所がわからないようです。

私「ここで~ingを付ける。そうすると、和訳でリアルタイム系で書けるから。」

彼女のプリントに線を引きながら説明しています。彼女は現在形はよく知っているんですが、所謂場面になるとごっちゃになってしまいよくわからなくなるそうです。

T「あの太った先生が言うには、今とか丁度とか意味わかんないし!」

かなりご立腹のようです。

(Just to~とNOWの事言ってるのかな。。。)

Oさんを見ると彼女のCさんに、和訳の答え合わせをしていました。同じ学校である上にカップルですからまさに阿吽の呼吸です。

T「Cちゃん、全然やってないって言ってて裏で勉強してる系でしょ?」

C「いやぁ、マジでわかんないから笑ついていくのがやっと。」

いつものガールズトークに花が咲きます。

5分前になると、中高一貫校組のD君とE君がやってきました。M君は、どうやら来ていないようです。

D「あ、良かった間に合った!」

E「ギリで着いた!先生まだいない!」

ハァハァハァハァと激しい息遣いです。どう見ても全速力で走ってきた形跡があります。

私「まだ先生来ていないよ。あれ、M君はどうした?」

すると、角刈りのD君が困った顔をしています。

D「朝メールしたんだけど、昨日の夜から返事無くてさ。」

「あいつ、家でDJの練習してるから寝てるかも。」

M君は、実は帰国子女でもあるので、英語は得意なはずですが、ヒアリングとか話す力はあっても、英語学習の方はイマイチのようです。

E「あ、智聖、Mが話有るって昨日言ってたから伝えておくわ。」

(なんだろうなぁ。宿題とかテストの事かな。)

その頃D君が、ガングロギャルのTを見ていました。
丁度時報が鳴り響きます。先生も入ってきました。授業開始です。

昼休みからの呼び出し


先生「はぃぃ・・い。4日間お疲れ様でした。」

何とか確認テストも終わり英語学習を習得した気分になってきました。通うF高校も放課後にこういった講習がありましたが、ペラペラの基礎問題集なのであんまり役に立ちません。

(ふう。。残りは、国語と古文と漢文か。)

昼休みになると、買い出しにいきます。いつも通りに校舎の外でガングロギャルのTと一緒に前の予備校からの縁ある女子Yを待ちます。

T「テスト難しかったね。多分30点ぐらいだようち。」

勉強した割には、自信がお互い無さげでした。

私「俺も50点だよ。長文読解が全然出来なかった。」

Y「おまたせ~。ごめんね遅れて。テスト難しかったね。」

Yは、久しぶりに私服できています。淡いワンピースにやはり厚底ブーツです。

発展クラスにおいてもかなり難しいレベルとのこと。一年後にはどこか大学合格しなければならないので、当たり前の現実なのです。

すると、英語の時間に来なかったM君とD君がこちらにやってきました。M君、相変わらずかなり眠そうです。

M「あ、おはよ。てかもうこんちわか。」

すると、側にいるYに視線を向けました。YはTと話し込んでいるので気づくはずがありません。D君もTを見ていました。

(そういえば、初日から見てたよなぁ。知り合いなのかな?)

私「あ、よかったら皆で買い出し行く?」

D「いや、今日はいい。つか、ちょっと時間作れる?」

いつも通りにクールな感じがしません。M君も、急に下を向き始めました。

急に藪から棒です。けれどもM君は話があると伝言されていたので、聞き逃すわけにはいきませんでした。

私「悪い、話が出来たから先に買い出しとコミュニティスペース行ってて。」

Y「え、何用事出来たの?ごゆっくり。。」

T「じゃあ、後でねぇ。コンビニ行ってる。」

彼女達は、そそくさと交差点を渡って走っていきました。

DとM君に校舎の死角にあるスーパーの裏口の近くまで連れていかれました。実は、この辺りは現役生、浪人生かかわらず喫煙するスペースになっています。約束として校舎のテリトリーは禁煙。ポイ捨て厳禁なのです。

後日談ですが、現役生のゼロクラスから発展クラスまでの悪い生徒笑がその死角になるスペースで30人ぐらい集まって喫煙をしてて理事長にこっぴどく怒られた事件がありました。当然、制服を着ている未成年ですから警察が110番されてしまう案件です。

(うーん、もしかしたら俺は殴られたり、脅されるのか?)

ということが脳裏に浮かんだものです。

彼らは、周りに誰もいないかキョロキョロしています。

(うん?タバコでも吸いに来たか?)

D「わりい、こんなとこで呼び出して。」

私「もしかして喧嘩?じゃないよね。」

M「いやいや、違う。誤解だよ。」

申し訳なさそうに、低姿勢な二人でした。けれどもどっちが話を切り出すか、悩んでいました。私は流れ的に女絡みだろうなと思って先手必勝致しました。

私「もしかして、さっきいたTとYについてかな?」

二人は、顔を合わせて驚いていました。咳払いをした後M君は眠気など無かったかのように、真面目に語りだしました。

M「話は早い。あの子達について教えて欲しい。」

D「実は、俺はあのT。Mは、子柄の子が気になってるんだ。」

その瞬間、開花されている桜が風で大きく舞い散る様子を今でも覚えています。淡い青春をイメージさせるニクイ演出です。

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