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脚本『祠の地縛霊』

祠の地縛霊


マル 祠に住む地縛霊。

チヨ マルが見える。

チヨ父 母でも可。

田中 おばさん。おじさんでも可。祠によくお供えをする。

佐藤 田中の子。孝行者。


【1】


祠がある。祠の上に、マルが座っている。田中が、おはぎをお供えする。


田中「やあ、やあ、神様。ご利益ご利益。」

マル「神さまじゃないよ。」

田中「おはぎ置いときますよ。手作りですんで、ご利益弾んでください。」

マル「だから、神さまじゃないって。」

田中「よろしゅう、よろしゅう。」

マル「行っちゃった。」

佐藤「行ったか?」

マル「行ったよ。」

佐藤「行ったな。」


佐藤、おはぎを取る。


マル「あ、泥棒!私んだぞ。」

佐藤「なんだ、見られてる気が(至近距離で、マルと目が合う)。」

マル「見えるのか!?」

佐藤「気のせいか。」

マル「気のせいか。」

佐藤「全くこんなぼろい祠にもったいない。」

マル「あ、返せ!くそう、触れない。」

佐藤「やっぱり気配が(目が合う。見つめ合う事しばし)。気のせいだよなあ。」

マル「気のせいなのかあ。」

佐藤「うま。うま。」

マル「私のなのにい。」

佐藤「ああ、美味い。やっぱりお供えにゃあ、もったいねえ。」

マル「ああ、もうムカつく!」

佐藤「ごっそさん(合掌)。」

マル「そんなときだけ、礼儀を見せるな!」

佐藤「ふう、ふう。」

マル「くそ、私が生身だったら礼拝所不敬罪で訴えてやる。」

佐藤「それじゃあ、神さま、よろしゅう、よろしゅう。」

マル「だ・か・ら、神さまじゃないって!」


佐藤、はける。チヨ途中で入ってくる。


マル「全く人の話聞きゃしないやつらだ。いや、聞こえないんだもんなあ。あいつらは悪くないよ。悪いのは……いいや、私は悪くない……じゃあ誰だ?誰も悪くないか。はあ、暇だ。おはぎも盗られちゃった。ここ最近ずっと暇だな。」

チヨ「何してるの?」

マル「誰か私を見つけてくれないかな。この際、白馬に乗った王子様じゃなくてもいいし。」

チヨ「ねえ、何してるの?」

マル「いや、やっぱり、見つけてくれるのなら王子様がいい。とびっきりのイケメンの。胸板厚く、腕太く。がっしり抱きしめられて。ああ、地縛霊と王子様の禁断の恋。」

チヨ「禁断なの?」

マル「そりゃあ、禁断の方が燃えるじゃない。」

チヨ「わかんない。」

マル「ん?あんた、誰と話してるの?」

チヨ「あなたと。」

マル「あなたって?」

チヨ「あなただよ、あなた。」

マル「わたし。わたし?!」

チヨ「変なの。」

マル「見えるの?」

チヨ「ねえ、それに乗っちゃいけないんだよ。罰当たりだって。」

マル「な、これは、私んだから、乗っても良いの。」

チヨ「あなたのなの?」

マル「……私んだよ。」

チヨ「じゃあ、神さまなんだ!」

マル「違うよ!」

チヨ「でも、神さまのなんでしょ、それ。」

マル「祠は神さまのだよ。」

チヨ「じゃあ、神さまだね。」

マル「うっ。」

チヨ「ねえ、神さま。」

マル「神さまって呼ばないで。私はただの地縛霊だから。」

チヨ「じゃあ、何て呼べばいいの。」

マル「マル、マルって呼んで。それが私の名前。」

チヨ「マルね!私はチヨ。よろしくね。」

マル「……よろしく。」

チヨ「ねえ、マル。」

マル「何?」

チヨ「何してたの?」

マル「何してたって、普通。」

チヨ「普通?」

マル「普通にしてた。」

チヨ「何を?」

マル「……普通を普通にしてた。」

チヨ「普通を普通に。」

マル「あんたと同じ、普通に生きてただけ。いや、生きてはないけど。」

チヨ「そうなんだ、つまんない。」

マル「そう、つまんないの、毎日毎日、ただただつまんない。」

チヨ「ねえ、遊ぼうよ。つまんないのってつまんないよ。」

マル「……あんたと、私が?」

チヨ「だよ。」

マル「そっか……遊ぶか。」

チヨ「どうしたの?」

マル「久しく遊んでない、人と。誰も、私を見つけてくれない!」

チヨ「なんと。」

マル「遊びたい!皆みたいに、遊びたい!」

チヨ「じゃあ、遊ぼう!」

マル「うん、遊ぼう!」

チヨ「何する!」

マル「かくれんぼ!」

チヨ「いーち、にー、さーん……。」


マル、あたりを見回し、慌てて、祠の裏に隠れる。


チヨ「はーち、きゅーう、じゅう。(あたりを見回し、祠の裏へまわり)みっけ。」

マル「みつかっちゃった。」

チヨ「簡単。」

マル「隠れる場所がないの!」

チヨ「マルの負けね。」

マル「次は勝つ。鬼ごっこしよう。私足早いの。」

チヨ「私も早いよ。」

マル「じゃあ、行くよ。」

チヨ「ちょ、いきなり。」

マル「よーい、どん。」


チヨ、ぐるぐる逃げる。マル、追いかけるも、途中で止まる。


チヨ「……どうしたの。」

マル「……地縛霊だから。」

チヨ「なんて?」

マル「私!地縛霊だから!いけないんですけど!」

チヨ「えー。」

マル「来なさいよ!こっち。」

チヨ「行ったら捕まるじゃん。」

マル「捕まれ!」

チヨ「鬼だ。」

マル「地縛霊です!」

チヨ「親戚?」

マル「知らない!」

チヨ「マルが鬼じゃだめだね。逆にしよう。」

マル「今のは引き分けね。」

チヨ「良いよ、一勝一引き分け。」

マル「見てなさい、私の俊足、脱兎の如し。」

チヨ「脱兎?」

マル「逃げウサギ!」

チヨ「よーい、どん。」

マル「ちょまっ!」

チヨ「タッチ!できない!?」

マル「幽霊だから!」

チヨ「ずるい!」

マル「はは、捕まえてごらんなさい。」

チヨ「まてー。」

マル「はははは。」

チヨ「うおおおお。」


走り回る。日が暮れていく。良い感じのBGM。


チヨ「はあ、はあ。」

マル「何あんた、ばてたの?」

チヨ「こんだけ走ったら、そりゃあ。」

マル「体力ないね。」

チヨ「マルがありすぎるだけ。」

マル「私は体力という概念がないのよ。」

チヨ「やっぱ、ずるい。」

マル「私の勝ち。」

チヨ「くやしい。」

マル「一勝一敗一引き分け。」

チヨ「総じて引き分け。」

マル「今日はこのくらいにしといたげる。」

チヨ「ちょっと休憩(座る)。」

マル「(近づいて)ねえ。」

チヨ「座りなよ。」

マル「……ありがと。」

チヨ「なに?」

マル「ちょっと気になって。あんた、この辺の子?」

チヨ「最近越してきたばっかり。」

マル「やっぱり。見ない顔だと思ったわ。どこから?」

チヨ「……石川。」

マル「石川?遠いとこから来たのね。」

チヨ「うん。」

マル「どんなとこ?」

チヨ「いいじゃん、どんなとこでも。」

マル「そう?」

チヨ「マルは長いの?」

マル「ええ、ずっと前ね。ずっと。あんた生まれてないかも。」

チヨ「そんなに長いの。」

マル「うん、だから、この町の事、良く知ってる。ずっと見てたから。」

チヨ「長老さん?」

マル「そこまでじゃない。」

チヨ「物知りさん?」

マル「そう、物知りさん。ほら、例えば、そこの通りに曲がったとこの駄菓子屋のおじいさん、するめを買うと飴玉くれる。」

チヨ「へえ。」

マル「東の通りにある花屋さんは、スーパーより安い。」

チヨ「そうなんだ。」

マル「そこの家のおばさんは、よく、手作りのおはぎをお供えしてくれる。それがすごく美味しい。」

チヨ「食べれるの?」

マル「食べれるの。あんたと同じようにじゃないけどね。」

チヨ「どうやって?」

マル「どうやって……こう、ぐわっと。」

チヨ「ぐわっと。」

マル「死んだらわかる。」

チヨ「残念。」

マル「そう、最近おはぎ泥棒が出るの。」

チヨ「罰当たり!」

マル「その盗人のせいで、最近おはぎ食べれなくって。触れないから、捕まえらんない……ねえ、あんた、明日も来なよ。ちょっと早く来なよ。」

チヨ「守ればいいの?」

マル「お願い。そしたら、おはぎわけたげる。」

チヨ「良いよ。おはぎ防衛隊だね。」

マル「ふふ、おはぎ防衛隊隊長に、チヨを任命する。」

チヨ「はい!」

マル「責任をもって、任務に当たるように。」

チヨ「ラジャ。」

マル「ふふ。」

チヨ「ふふ。」

マル「あ、月。」

チヨ「ほんとだ。」

マル「夕月。」

チヨ「もうそんな時間なんだ。」

マル「あんた、大丈夫なの?」


チヨ父来る。


チヨ父「ちよ、こんなとこにいたのか。探したぞ。」

チヨ「お父さん。」

チヨ父「もう、そろそろ日が暮れるから、帰るぞ。」

チヨ「……うん。じゃあ、また明日。」

マル「じゃあね。来なさいよ。」

チヨ「うん。」

チヨ父「……誰かと遊んでたのか?」

チヨ「うん。」

チヨ父「どこに?」

チヨ「恥ずかしがり屋さんだから、隠れちゃった。」

マル「恥ずかしがり屋じゃないぞ。」

チヨ父「そうか。友達出来たんだな。」

チヨ「うん。」

チヨ父「よし、帰ろう。今日は、月がきれいだから、水炊きだ。」

チヨ「楽しみ。」


親子、はける。


チヨ「月がきれいだから、水炊き?石川の習慣かしら。ふふ、変な子。久々に、遊んだわ。やっぱりいいものね、人と喋るのは。友達。友達ね。いいわ。すごくいい。王子様じゃないけど、すごくいい。」


【2】


チヨとマルが祠の横にいる。田中がおはぎを持ってくる。


チヨ「こんにちは!」

田中「あら、こんにちは。」

チヨ「おはぎ?」

田中「そうよ、おはぎ。ここにお供えするの。」

チヨ「知ってるよ。神さまから聞いたから。」

田中「神さま?」

マル「神さまじゃない!」

チヨ「祠の。」

田中「神さまとお話しできるの?」

チヨ「うん。」

田中「そう、じゃあ、よろしく言っておいて。」

チヨ「おはぎ美味しいって言ってたよ。」

田中「ふふ、それは良かった、作り甲斐があるわ。」

マル「すごく、美味しい。誇っていいわ。」

田中「お嬢ちゃんは何してるの?」

チヨ「おはぎ守るの。」

田中「守る?」

チヨ「泥棒さんが出るんだって。」

田中「あら、こんな、ばあの作ったおはぎを?」

マル「美味しいんだ、盗みたくもなる。」

チヨ「盗みたくなるくらい美味しいんだよ。」

田中「ふふ、ありがとう。じゃあ、良く守ってくださいね。騎士様。」

チヨ「うん。」

田中「それじゃあ、神さま、おはぎ、置いときます。よろしゅうよろしゅう。じゃあ、お嬢ちゃんも、またね。」

チヨ「バイバイ!」

マル「よし、行ったね。すると、そろそろ来るわ、あいつが。」

佐藤「行ったな。」

チヨ「泥棒!」

佐藤「なんだ。」

チヨ「おはぎ泥棒!」

佐藤「人聞きの悪いことを!」

チヨ「おはぎは渡さない!」

佐藤「おまえなあ、そんなとこに置いていても腐るだけだぞ、もったいないから、俺が食ってるんだ。」

チヨ「これは神さまのだよ。罰当たり!」

佐藤「うっ、でもなあ。」

チヨ「神さまが食べるからだめ。」

佐藤「腐ったらどうすんだよ。」

チヨ「腐る前に私が食べる!」

佐藤「泥棒じゃないか!」

チヨ「神さまがいいって言ってたもん。」

佐藤「はあ、お前が食べるんだな。」

チヨ「うん!」

佐藤「じゃあ、俺はあきらめるよ。」

チヨ「良いの!」

佐藤「ああ、美味いだろそれ。」

チヨ「まだ食べたことない。」

佐藤「すっごく美味い。」

チヨ「楽しみ。」

佐藤「残さず食えよ。」

チヨ「うん!」


佐藤、はける。


マル「やけに素直ね、あいつ。」

チヨ「防衛成功!」

マル「まあ、いいわ、食べましょう、久しぶりのおはぎだわ。」

チヨ「ぐわっと!」

マル「そう、ぐわっと。見ときなさい。」

チヨ「(凝視)。」

マル「(食べるふり)美味しいー‼」

チヨ「ぐわっと?」

マル「わかんなかった?」

チヨ「うん。」

マル「これが幽霊の食事よ。」

チヨ「ぐわっと……。」

マル「ほら、これ、残り、食べな。お礼よ。」

チヨ「全部ある。」

マル「幽霊は、実体は食べないの。」

チヨ「(食べる)美味しい。」

マル「でしょう。」

チヨ「ほんとに、一番美味しい。」

マル「おばさん、おはぎ職人にでもなればいいのに。」

チヨ「おはぎ職人?」

マル「ないわよ、そんな職人。」

チヨ「やっぱり。」

マル「ねえ、頼みがある。」

チヨ「神頼み?」

マル「……。」

チヨ「なに?頼みって。」

マル「……秘密よ。あのね、学校の裏山にね、私が作った秘密基地があるの。」

チヨ「作ったの?」

マル「そう、昔、生きてた頃、友達と作った。放課後はそこで遊んでたの。あんたに、特別に教えたげる。」

チヨ「うん。」

マル「そこにね、カギがあるの、宝箱の。それ、取ってきてくれない?」

チヨ「いいよ。」

マル「山、危ないから、気を付けて。」

チヨ「うん。」

マル「学校の正門から、こういって、こう、ここを右に曲がって、で、山の中、入り口があるから、進んでったら、赤い棒があるの、そこをぐっと、そんなかんじで、進んでって。」

チヨ「わかった!」

マル「お願い、大切な物なの。」

チヨ「うん、待っててね(走り去る)。」

マル「ちょっと、そんな急がなくったって……今日の遊び考えてたのに。」


【3】


田中とチヨが連れ立って来る。


田中「それで、神さまが、そのカギを?」

チヨ「うん、大事な物なんだって。」

田中「えらいわね。」

チヨ「おばちゃんは今日もお供え?」

田中「ええそうよ。」

チヨ「すごく美味しかった。神さまもそういってた。」

田中「それは良かった。」

チヨ「あ、神さま!」

マル「おはよう。」

チヨ「不機嫌?」

マル「そんなことないわ。」

田中「そこに神さまがいるの?」

チヨ「うん。」

田中「拝んどきましょう。」

マル「やめてよ。」

チヨ「恥ずかしいからやめてって。」

マル「恥ずかしいんじゃない!」

田中「あら、シャイなのね。じゃあ、あんまし、じろじろするのも、いやでしょうから、おはぎおいてくわね。」

マル「ありがとう!」

チヨ「ありがとう。」

田中「じゃあ、今日も、泥棒さんから守ったげて。」

チヨ「うん!」


田中、はける。佐藤が来る。


佐藤「行ったか。」

チヨ「行ったよ。」

佐藤「今日もお前が食うのか?」

チヨ「うん。」

佐藤「わかった。どうだ?美味かったか?」

チヨ「とっても。」

佐藤「それは良かった。じゃあ。」


佐藤、はける。


マル「あいつホントに素直ね。」

チヨ「悪い人じゃないのかも。」

マル「悪くない人は盗みなんてしないのよ。」

チヨ「そっか。」

マル「そうよ。」

チヨ「そうだ、カギ。」

マル「ありがと。おはぎの横に置いといて。」

チヨ「どうしたの?」

マル「そんな急がなくたって良かったのよ。寂しいわ、一人は。」

チヨ「ごめん。」

マル「あんたは悪くない。私のわがままなの。」

チヨ「じゃあ、今日、遊ぼう。」

マル「……うん、昨日の分までね。」


遊びタイム。


マル「ねえ、そろそろ休憩にしましょう。」

チヨ「うん、疲れた。」

マル「さあ、カギ、あれ、宝箱、裏にあるの。」

チヨ「裏?」

マル「祠の裏、埋めてある。」

チヨ「タイムカプセルみたい。」

マル「そう、タイムカプセル。掘り起こしてちょうだい、お願い。」

チヨ「どこ?」

マル「こっち、ここ。」

チヨ「ここ?」

マル「ありがとう。ごめん。」

チヨ「いいよ。あった。これ?」

マル「……それ。」

チヨ「マル?」

マル「ごめんなさい、ちょっと懐かしくって。もう、見れないと思ってたから。こんなに近くにあるのに。」

チヨ「ふふ、開けていい?」

マル「お願い。」

チヨ「わあ、きれい。」

マル「全部私の宝物、思い出。」

チヨ「写真?マルと……。」

マル「友達。」

チヨ「今と変わんないね。」

マル「変われないのよ。皆、もう大人になっちゃった。」

チヨ「そうなんだ。」

マル「ねえ、そこに、ネックレスあるでしょ。」

チヨ「うん。」

マル「それ、あげる。お礼。」

チヨ「すっごくきれい。」

マル「私の一番のお気に入り。」

チヨ「いいの?」

マル「いいの、私もう着けれないし。あんたきっと似合うわ。着けてよ。」

チヨ「うん。」

マル「やっぱり、きれい。」

チヨ「うん、きれいな、色。」

マル「あんたもよ。」

チヨ「ふふ、ありがと。大切にする。」

マル「お願い……しんみりしちゃった。もう遅いわ、そろそろ帰らないと。」

チヨ「うん。じゃあね。」

マル「明日ね。」

チヨ「バイバイ。」

マル「バイバイ。」

チヨ「あ、お父さん。」

チヨ父「やっぱりここにいた。……何だそのネックレス。」

チヨ「貰った。」

チヨ父「貰ったって、友達に?」

チヨ「うん。」

チヨ父「そっか、じゃあ、何かお礼をしなくちゃな。」

チヨ「うん。」

チヨ父「今日はカレーだよ。」

チヨ「お腹すいた。」


【4】


田中「あら、お嬢ちゃん、今日も来てるの?」

チヨ「うん。毎日来てる。」

田中「そうなの。この町には慣れたかしら?」

チヨ「うん。友達もいっぱいできたんだよ。」

田中「あら、いいことね。」

チヨ「でも、ほかの子と遊びすぎて、神さま拗ねちゃった。」

田中「仲良しさん。」

チヨ「出てこないの。」

田中「食べ物で釣りましょう。」

チヨ「おはぎ!」

田中「どうぞ、おはぎです。」

マル「要らない。」

チヨ「出てこない。」

田中「あら、残念。」

チヨ「どうしよう。」

田中「踊りましょうか。」

チヨ「踊る?」

田中「日本古来より、閉じこもった神さまは踊って呼ぶのよ。」

マル「神じゃない!」

チヨ「出てきなよ。おはぎ食べちゃうよ。ねえ、おばちゃん。」

田中「あら、踊らないの?」

チヨ「踊らない。」

田中「残念。」

チヨ「踊りたいの?」

田中「歳よ。体が動かないわ。」

チヨ「じゃあ、座っておはぎ食べよ。」

田中「ふふ、罰当たりね。」

チヨ「ほら、出てきなよ。」

マル「(出てくる)ごめん。」

チヨ「謝ることじゃないよ。」

マル「嬉しくって、友達が。」

チヨ「寂しかったんでしょ。」

マル「あんたは、生きてるから、友達もいる、当然。」

チヨ「マルだけと遊ぶわけにはいかないの。」

マル「わかってる。わかってるから、嫉妬するのだけは許して。」

チヨ「いいよ。でも、ぜったい、マルとも遊ぶから。」

マル「ありがとう。」

田中「お邪魔そうね。じゃあ、おはぎ、よろしく。」

チヨ「ありがと、おばちゃん。」

田中「じゃあ、また今度。」

チヨ「バイバイ。」

マル「……泥棒、来なくなったね。」

チヨ「うん。」

マル「ねえ、チヨはさ、その、生きてる友達の方がいい?」

チヨ「何言ってんの。」

マル「だって、楽しくないでしょ?チヨ、いろんな遊びができるのに、私のせいで。」

チヨ「遊びだけじゃないよ。マルといるのが楽しいから、友達なんだよ。」

マル「楽しい?」

チヨ「マルの話、聞くの楽しいよ。」

マル「ねえ、チヨの話を聞かせてよ。」

チヨ「私?」

マル「うん、私、チヨのこと何も知らない。」

チヨ「……話すこと、マルみたいに物知りじゃないから。」

マル「何でもいいんだよ、チヨの、前の町の事とか、昔の友達の事とか。いっつもはぐらかす。」

チヨ「ごめん。」

マル「駄目なの?」

チヨ「話せないや。」

マル「……そう。」

チヨ「ごめんね。話したくない事なの。」

マル「ごめん。」

チヨ「……あ、もう、月出てる。遅いから帰るね。」

マル「まだ、早いよ。」

チヨ「ううん。もうお父さん迎えに来る頃。」

マル「待って……その、また来てね。」

チヨ「……うん。」


【5】


雨が降っている。


マル「来ない。」


日が経つ。


マル「来ない。」


日は経ち続ける。


マル「ずっと雨、雨ばっか。お呼びじゃないの。チヨ、待ってるよ。」


チヨ父、来る。憔悴している。


マル「チヨのお父さんだ。」

チヨ父「ここは……、チヨがよく遊んでた。」

マル「ねえ、大丈夫?酷い顔。」

チヨ父「チヨ……。」

マル「チヨが、どうしたの?!」

チヨ父「チヨ、無事でいてくれ、どうか、どうか。神さま、どうか、チヨの友達なんでしょう?どうか。」

マル「……。」

チヨ父「駄目だ、神頼みなんて馬鹿な真似を。疲れてる。」

マル「……チヨ、どうしちゃったの。」

チヨ父「チヨ、安心してくれ、必ず、父さんが見つけてやるから。」


田中来る。


田中「あら、チヨちゃんのお父さん。傘もささずに。」

チヨ父「あなたは、確か、田中さん?」

田中「覚えていらしたんですね。」

チヨ父「あなたのおはぎが美味しいと、娘がよく。」

田中「そうなの。最近チヨちゃん元気?めっきり見なくなちゃって。」

チヨ父「……その、数日前から……帰っていないんです。」

田中「……そう、なの。」

チヨ父「もし、その、何か、娘の……。」

田中「ええ、とりあえず、家で、お風呂にでも入りなさいな。」

チヨ父「いえ。」

田中「チヨちゃん探してるんでしょう?風邪でも引いたら大変よ。体が資本なんだから。」

チヨ父「……すみません。」

田中「お父さん、しっかりしないと。私にできることなら手伝うわ。」

チヨ父「……すみません。ありがとうございます。」

田中「いいの。チヨちゃんは私の友達よ。警察は?」

チヨ父「探してくれていますが、進展は。」

田中「ほら、来なさい。」

チヨ父「すみません、すみません。」


二人、はける。


マル「……探さなきゃ。私が探さなきゃ。友達だから。友達なんだから。」


マル、駆け出すも、地縛により出れない。


マル「なんで!なんで!なんで!チヨが、チヨが。なんで、私は!なんで。」


何度も出ようともがく。


マル「くそっ!くそっ!」


日が経ち、朝になる。雨晴れ。マル、うずくまって泣いている。


マル「チヨ、ごめん、ごめん。友達なのに、友達なのに。」


チヨ来る。


チヨ「泣かないで。」

マル「チヨ?チヨ!」

チヨ「お待たせ。」

マル「チヨ、どこにいたの!(駆け寄ってチヨに触れ、びくっとする。)チヨ、なんで?」

チヨ「やっぱ、触れた。」

マル「チヨ、ごめん、ごめん!助けられなかった!」

チヨ「(マルを抱きしめて)いいの、ほら、おかげで、マル、ね。」

マル「ごめん、ごめん。」

チヨ「マルがいてよかった。誰も、私を見つけてくれない。お父さんも。」

マル「……。」

チヨ「いま、嬉しいんでしょ。」

マル「……ごめん。」

チヨ「いいよ、嬉しくって。」

マル「チヨ、大好き。どこにも行かないで。」

チヨ「うん。待たせてごめんね。一人にしちゃって。」

マル「うん。」

チヨ「よしよし。泣かない。」

マル「うん。」


【6】


チヨとマルがいる。田中が佐藤を連れてくる。


チヨ「田中のおばさんと。」

マル「おはぎ泥棒?」

田中「ほら、礼して。」

佐藤「わかったよ。」

田中「こんの馬鹿息子が。全くお供え物盗むなんて罰当たりなことを。」

チヨ、マル「息子?!」

佐藤「だって、せっかく作ったやつ、腐ったらもったいないじゃん。」

田中「……全く、謝りな。」

佐藤「……おはぎ盗んじまって、すみませんでした。」

田中「おはぎ泥棒、息子でした、許してやってください神さま。」

マル「全然いいよ。」

チヨ「神さまじゃないんでしょ。」

マル「ややこしい!」

田中「……チヨちゃんのこと……。」

佐藤「チヨちゃん、ご冥福をお祈りしとります。」

田中「これ、おはぎです。」

チヨ「二個ある。」

田中「それじゃあ。よろしゅうよろしゅう。ほら行くよ。」

佐藤「ああ。」

田中「おはぎ多めに作ったやつが家にあるから。」

佐藤「まじで!」


二人はける。


マル「祈られてたよ。」

チヨ「ふふ。」

マル「おはぎ食べようか。」

チヨ「ぐわっと?」

マル「ぐわっと(食べるふり)。」

チヨ「おお!ぐわっと。」

マル「わかった?」

チヨ「うん!ぐわっと(食べるふり)。」

マル「ふふ。」

チヨ「やっぱり。」

チヨ、マル「美味しい!」


終わり

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