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何も居ない水槽が好きだった。

ある朝、何かの気配に気付く。
右、左、目が合う。
コポコポと音のする水槽に金魚が居た。
何も居ないはずの水槽に金魚がいる。
買った覚えのない、もらった覚えのない金魚。

一人暮らしで、僕が買う以外もらう以外そこにいるはずの無い金魚の存在。
コポコポと音だけがする水槽で優雅に泳ぐ。
「講義始まっちゃう…」
金魚を残し大学へと急いだ。

「お前、昨日すごかったよなぁ!あんな人変わる?マジ面白かったー!」
「佐川くん…何のこと?」
「いや、覚えてないの?ホント?やっべぇ」
「…?」
「昨日ほら祭りあったろ?近所でさ。そこでお前、酒一口飲んだら人変わっちまって」
「えぇ…?」
「うわ、覚えてねえんだ。お前あれだぞ、金魚すくいの屋台で、俺が全部すくってやるよぉ!つって無双してたんだぞ」

金魚。

「…金魚!家に居た」
「あぁ、一匹もらってた」
「朝、視線感じて…全然記憶になくて」
「そりゃ怖いわ、でもお前んち水槽あったんだ?」
「うん、何にもいない水槽」
「ちょうど良かったじゃん」

良くない。
僕は何もいない水槽がいい。
だって、愛着が湧いてしまう。
好きになってしまう。

君と一緒にいるように。

プクちゃんと命名されました。

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