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あれから


いろいろなことがありました。
楽しい思い出も悲しい出来事も。
夏を少しだけ好きになりました。
人と向き合う意味を知ることができました。

そして、いろいろな人を傷付けてしまいました。

もう元には戻れません。

僕は困っている人を見ると、つい何かしてあげたくなるのです。手の届かないところに手は差し伸べられませんが、僕の手を握ってくれた人には何かしてあげたいのです。僕の手を握ったことを"良かった"と思って欲しいのです。

でもそれは、一方的な良かれと思ってです。
きっと、僕が手を差し伸べなくても、なんとかなる人たちばかりなのです。それを理由に自分を満たしているだけなのです。

その結果がどうだったかはここに書く必要はありません。もう充分、僕は理解しました。この話は終わりにします。


この前の連休中、5年ぶりに家族に会いました。
白髪の増えた父。
少し小さくなった母。
少しだけたくましくなった兄。
父は泣いていました。
母はとても嬉しそうでした。
兄は挙動不審でした。

その日は1時間だけお話をしました。
父のひと言で写真を撮りました。
父は僕に何度も握手を求めました。
僕はそれを拒みませんでした。

次の日は僕の家に訪れました。
どんな家に住んでいるのか知りたかったと。
大阪城に行きたいというので案内しましたが、すぐに終わってしまい時間を持て余しました。
こうなることは最初から分かってしました。
でも他に行きたいところもないようで、空港に向かおうとしていました。
出発まで5時間もあるのに。
僕はご飯に行こうと誘いました。
美味しい串カツ屋さんにしました。
道中、僕の後ろを俯きながら歩いていました。
誰も気にしてないよと言うと、少しだけリラックスしたようでした。
お店の中では、ずーっとふわふわして落ち着きがなく、どれに何つけたらいいのか、と騒いでいました。
基本の串カツを知らないので、それがどれだけ他と違うのかは分からなかったようでした。
思ったよりいい反応ではありませんでしたが、それも仕方ないかと思えました。
母は財布から何かを取り出して
毎日これを見ているんだと言いました。
期限切れの穴の開いた免許証。
そこには16歳の僕が写っていました。
話に夢中になりその免許証を蔑ろにしていると、私の免許証だよ、返してよ。と言うのです。
ちょうど免許の更新があった直後だったので、26歳の僕の免許証もプレゼントしておきました。
この日1番笑って1番切ないできごとでした。

ご飯を食べ終えるとちょうどいい時間になりました。
3人はこれから空港に向かうそうです。
梅田は入り組んでいて迷子になるだろうと思い僕は駅まで送ることにしました。
改札前で父が再び握手を求めてきます。
僕はそれに応じます。
母も、兄も、同じように握手をしました。
僕は母をぎゅっと抱きしめました。
最初で最後になると思います。
でも、そうせざる得なかったのです。
自然に涙が出てきました。
少し天然で抜けてる母。
いつも一生懸命な母。
疲れていても休まない母。
少し小さくなった母。
僕は昔から母が大好きでした。
いつからか、その感情に蓋をしていました。
今日くらい、素直になってもいいだろうと思ったのです。

3人は改札を抜けて、行ってしまいました。

僕は、気分屋な父が嫌いです。
兄も自分本位で頼りになりません。
そんな2人に振り回されている母が不憫でなりませんでした。子どもの頃から僕だけはわがままを言わないでおこうと決めていました。
でも、未だに仲良しの3人を見ていると、母には母なりの心得があり、2人の特性は大きな問題ではなかったのだと、気付かされました。

僕は少しだけ、父と兄を認めようと思いました。
彼ら2人で会社を起こして、5年ほどでしょうか。
不器用な2人なので、多くの苦労をしているのだと思います。
それでも、普通に旅行もできて、定期的に美味しい焼肉を食べに行けているようでした。
よかったなと心から思いました。

今まで何もしてあげれなかったから、とお金の入った封筒を渡されました。
家に帰って開けてみると、なぜかキリの悪い数でした。
なぜそうなったのか、間違いなのか、精一杯を出したからなのか、分かりません。

とにかく僕は、このお金は一生使えないお金だなと思いました。

このお金を守るためにも、もっと節約をしようと思いました。万が一にもこのお金を使わなくても済むように。

父と母にケーキを買うためにおやつを我慢していた時を思い出しました。父と母にクリスマスプレゼントを買うためにお小遣いを貯めていたことを思い出しました。
25歳の時に、父と母それぞれに兄弟でプレゼントをしようと企画したことを思い出しました。父には珍しいお酒とバカラのグラスを。母には高いオーガニックなハンドクリームと自分のために使えるように百貨店の商品券を。後日、商品券で買った靴を履いた母の写真が送られてきました。変なポーズをしていました。

5年ぶりの家族との再会への僕の反応は自分でも予想外でした。
僕はあの日を起点に、少しだけ変われた気がします。少しだけ自分にも人にも素直になれたような気がします。自分のことをもっと理解しようと思います。人のことをもっと許してあげるべきだとも思います。

これからの目標を見つけました。
頑張っていこうと思いました。
僕の手を握ってくれた人たちをもう悲しませないように。

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