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『海鳴りのとき』『失われた夜に』~新たな自主怪獣映画の世界~

大晦日の日になりましたが、皆様はどのようにお過ごしでしょうか?
今回は、「全国自主怪獣映画選手権」(以下、自怪選)で上映された自主怪獣映画について書いていきたいと思います。自怪選とは、子どもから学生、そして大人たちのアマチュアの監督による自主怪獣映画を一堂に集めたコンテストです。

『ウルトラマンZ』『ウルトラマンブレーザー』のメイン監督の田口清隆監督が、 若手の特撮クリエーターを育てるべく主催しており、毎年開かれております。

その第18回の自怪選(2021年)で、『海鳴りのとき』という作品が上映されました。『海鳴りのとき』は、初めての怪獣映画だったにも関わらず、ストーリーと特撮を含む映像表現が評価され、優勝作に選ばれました。
この作品を手掛けたのは、佐藤高成監督。庵野秀明監督などが通っていた大阪芸術大学で、映像制作を学んでいました。
『ウルトラマンブレーザー』では助監督を務め、現在はフリーの映像作家として、『推しの子』の PV 演出などを⼿掛けています。

佐藤監督のYoutubeアカウント↓

僕は、『海鳴りのとき』と佐藤監督の新作『失われた夜に』の試写会のお誘いをいただいて、観させていただきました。
試写会は、今年の10月と11月の2回に渡って行われました。


佐藤監督のプロフィール

『海鳴りのとき』では、ある夏の日、相田汐里という友人だった少女が 死んで心を病んだ青年、瀬尾昭人は予知夢を見るようになります。それは、怪獣が世界を滅びの夢 で、傷心の昭人はこの未来を受け入れ、残された時間を生きようとします。やがて現実に怪獣は現れ、街を破壊していく中で昭人は……というストーリーです。

『Love Letter』や『スワロウテイル』の岩井俊二監督の画作り、『君の名は。』や『天気の子』の新海誠監督による男女の物語を中心としたセカイ系の影響を受けた佐藤監督の手腕は、本編にも大きく力を注いでいて観る人を惹きつけます。この作品は、特撮映画だけではなく、1本のエンターテイメントの映画としても完成度が高く、特撮を好む人以外の一般層にも響くものだと思いました。

ゲゾムのマスク

怪獣、ゲゾムが出てきて街を破壊する際に、水を使ったダイナミックな特撮の破壊描写も印象に残りました。大阪芸術大学に通っていて、そこでノウハウを蓄積していた佐藤監督の力量を大きく感じました。

そして『海鳴りのとき』に続く『失われた夜に』は、2022年5月よりクラウドファンディングによって制作資金を募集して制作されました。

『失われた夜に』は、佐藤監督の大学における卒業制作としてつくられました。前作の反省点、改善点を克服し、さらに多くの人に楽しめる作品にするべくエンタメ性を重視した作品作りをテーマに掲げ、家出した中学生、高岸誠二を主人公に公園で出会った宇宙人を名乗る「お姉さん」との交流を通じ、街に現れた怪獣・ペエルキウス巨人との戦いを描きます。

ペエルキウス
巨人

今回は中学生と年上の女性を中心とした、いわゆる「ボーイミーツガール」に近いストーリーを展開し、前回の映画以上に本編の切り口が独特な雰囲気でした。王道のアニメ映画を目指したつくりになっていて、全体的に情緒感あふれる作品になっています。

特撮面では、1体の怪獣がひたすら街を破壊する『海鳴りのとき』に対して、「巨人対怪獣」というウルトラマンをリスペクトしたようなつくりに徹しています。
戦闘の舞台ではナイター特撮も見所で、発光するペエルキウスや巨人の造形は、夜の街に大きく見映え、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』のイメージに近い感じでした。

音楽は『ウルトラマンサーガ』に関わった原文雄さんが担当し、感動的なシーンの中で流れる劇伴は印象深いものでした。新しい自主怪獣映画の世界を創作するに当たって大きく貢献したことが窺えます。

この映画を観た各監督の推薦コメントも、以下に記載いたします。

樋口真嗣監督……「歴史は繰り返す、というけど、もう新世代が現れた! しかも、そこにしっかりと根付いた強靭な⾃我は 紛れもなくオリジナルだ。 そして何よりも作りたい、残したいという想いが 赫赫と息づいている。 その眩ゆい若さが羨ましい!嫉ましい! だがこれこそが⼈類の進化なのだ!」

田口清隆監督……「現代だからこそ⼿に⼊るあらゆる情報…映像作品・メイキングに培養され、 現代だからこそ使える様々な機材・デジタル技術を縦横無尽に使いこなす若者が遂に芽吹いた。 ⽇本特撮の歴史に再び⼤きな波がやって来るのか、期待して⾒守りたい。」

雨宮哲監督……「純⽂学とエンターテイメント。 センチメンタルと凶暴性。 その両⽴しない振り幅に、とても共感してしまいました。 "⼈の⼼"と"怪獣"という、⽇本怪獣映画の矜持を⽬に焼き付けて欲しいです。 間違いなく、佐藤監督は⼼に怪獣を宿しています。」

各監督から絶賛され、今後の活躍にも期待の佐藤監督。
同世代の僕としても、未来の名監督の成功を祈っております!

2回目の試写会では、アベユーイチ監督も来られました。アベ監督は、『ウルトラマンメビウス』の第23話「時の海鳴り」を撮っています。「時の海鳴り」と『海鳴りのとき』を撮った2人の監督の記念すべきツーショット!

『失われた夜に』は第21回の須賀川大会で上映され、大阪のシネ・ヌーヴォXでも、 2024年1月20日(土)より、一週間限定で上映が行われる予定です。みんなで観よう!

写真提供:佐藤高成さん
参考資料:おたくま経済新聞佐藤高成X(旧Twitter)アカウント




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