半隠遁ノートvol.2(再起動)




【繰り返し】

「おはようございマス」とモゴモゴつぶやきながら、そそくさと、自分の席に座る。

みんなが他人を構っているヒマはないことをいいことに、お茶を濁す毎日。

真面目な人ほど、職場の人々に対して過剰な気配り病に陥りがち。
気遣いとは決して悪いことではないが、気に病むまでいってしまわないようにしたいところ。
適当に流さないと、諸々長続きしない。

学校を出て、就職活動をし、拾ってもらった形の組織で、疑い無く数千回と繰り返してきた朝の儀式。

何千回も、イヤな気持ちを抑え、職場のドアをくぐり、席についてきた。

組織に、人生の貴重な時間を30年も無自覚に捧げてしまった……。

不甲斐ない人生だったと絶望してしまいそう。

とはいえ、
対価としてのおカネを頂き、
働くための基礎的な能力、思考力、行動力を身につけさせてもらい、
達成感も少々あり……

30年も働いて来たんだ。おカネ以外で何か得るものもあったろうに

もう一人の自分の声

それはそれで複雑な心境。

人生の折り返し地点を過ぎてから、10年ほどが過ぎようとしている。

もう、いい加減自由になって勝手気儘に過ごしたいところだ。

雇われ人や下請け的な人は、仕事を自分で選べない。与えられたタスクに仕えることを求められる。

芸術家もおカネのために絵を描いたり、小説を書くことがあるし、
資産家だって資産価値が急減したり、天変地異で劣化したときにストレスを感じることがあるだろう。

やりたいことをやっている人は、自分のために使う時間が多く、やりたくないことを無理してやっている人は、他人のために時間を使っている意識が強いだろう。

雇われ人や下請け人は、勤務時間をひたすら客から与えられたタスクに費やすこととなる。

費やした時間は決して戻らない。

政治家や議員の思いつき事業
客や上司への忖度
ただGDPを増やすだけの仕事
予算消化
文句をいわれるばかりで感謝もされない調整事。
愛想笑い。
ブルシットジョブ……

やはり、時間を無駄遣いしてしまったようだ……。

でも、後悔する時間こそ、最もムダな時間。

家に帰ればホッとして、達成感、心地よい疲労も感じたところで、ひとっ風呂浴びる。

【回想】


職場で過ごす時間は、人生を折り返したあとは、人生の浪費

 或る哲学徒の回想

管理職が窓際に座っている。
その下に、中間管理職。
毎日毎日飽きもせず、いいオトナが奏でる狂想曲。
いつか楽になれることを夢見て……。

コロナ禍とDX化でよく分かった。
客観的に見て、幕末の武士階級と化した窓側の人々……

とにかくカネ。
ボーナスが喉から手が出る位欲しい。
少なくとも6月までは辞めない気概…

肩たたきされるまで、もうしばらく寄生することを許してほしい……。

或る寄生人の回想


仕事とは、思い出未満の時間。
たぶん死ぬときに職場のことを思い出す人はいないだろう。

日曜の夜や平日にはこんなにも職場のことを考えているというのにね。

仕事への片思い。
組織への片思い。
いい加減諦めたほうが身のためだよ…

家にいる時間を増やしたい。
家族や気の合う人たちとだけ、ときを過ごしたい。
ココロのなかをのぞく週末。

昨冬はたしかに、職場の人間関係で苦悩し、退職願望が最高潮に。

職場における課題や物事は次々に自分に降ってくるのだが、時間と手間をかければ、ふつうは解決できるものだ。

しかし、年齢を重ねる度に、マルチタスクと難度は増し、他人(上司や部下)の課題もどんどん守備範囲に入ってくるようになる。

人間関係を上手く使い、他人の時間も使わないと、自分の仕事が回らなくなるのだ。

しかし、組織には必ずズルい人がいて、仕事の押しつけあいが始まるもの。

ここはアドラー流の「課題の分離」の出番なのだが、上司が勝手に受けてきてしまった課題だけは、どうしても分離などできやしない。

断ることは理論的には可能だが、組織内に相当強力なコネでもない限り、人事評価の減点が避けられないからだ。

心のなかで「このアホウ」と叫ぶ。
これはオレの仕事じゃねー。

或るオヤジの咆哮

もう一人の立派な自分が出現する。
諭吉《カネ》に頭を下げよう。
割りきるためにはカネのため、と。
誰かがやるほかはないんだし。

とても醜く、人としてどうかと思うのだが、本社の人間とか管理職は、仕事の押し付け自体が仕事メインになってしまっている。
彼らは彼らで、役所、経営陣、受注先などからよくわからない仕事が舞い降りてくるので始末が悪い。

制度疲労ということなんでしょうね。

一体毎日なにやってんだろ。
雇われて生きるのは、もうそろそろ卒業してもいいんじゃあないか……。

【代償】

労役苦役の代償として受けとるカネ。

年功序列とはとても巧妙な仕組みであって、若いうちの時給よりも、今の時給のほうが高い。

今の時給に見合う仕事など……ないよなァ……辞められず、ズルズルと、時間だけが過ぎ、結果的に終身雇用と相成る。

辞められないのなら、自分を誤魔化すために気分転換が必要だ。

頂戴したカネの一部を充て、四日間くらいの一人旅に出れれば相当リフレッシュできるのだが、子供の頃から培った自己犠牲の精神が邪魔をする。

空気を読め。
みんなはどうしてる?
自分は浮いてないか?

僕はニッポン人

「一人旅」に出たくても出られないという閉塞感の中、自身の雇われ人としての忍耐ガマンの限界が訪れる。

イライラして怒鳴り不満を表現
急に休んで不満を表現
上司に刃向かう

そんなことはできやしない。

また、勝手に旅に出てしまうような自棄的末期症状でもない。

仕事を増やす、GDPを増やす、株価を上げるために作られた機構に寄生している。
面倒事が多いが、カネのため仕方なく。

ただ、初めて、
早期退職優遇制度の通知に心が動かされた、ということなのだ。

実は、去年の11月位から、早期退職への方向に舵をきりはじめた。

まあ、人間関係に悩んでいたら、悩むことに飽き、開き直ってしまったような感覚だろうか。

【再起動】


60歳定年が、65歳になった。
5年雇ってやるから、健康保険証はつくってやるから、報酬は7割で我慢しろ。役職も30代、40代に戻すから沢山仕事をしろってね。

ゾッとした。
健康寿命が71歳なのに、65まで働けとはどういうことなのだろうか。

確かに、年金支給開始が67歳になるかもしれないし、年金額も今後上がるとは到底思われない。
インフレ税で預金は目減りし、電気代も食品も、あらゆる費用が上昇する。

雲行きが怪しくなっている。
もしかすると、早期退職どころかインフレ税で身ぐるみ剥がれるのではないかという気もしてきた。

先々の心配をするのであれば、とりあえずボーナスももらえる今の仕事を辞めることは経済的に得策ではなさそう。

11月に一念発起し、早期退職へ向かい始めた自分は、ボーナスの出る6月まで生きながら得た気がしている。

インフレ税に加え、米露中対立の最前線たる日本列島に生きるオレ。南海トラフに関東大震災はこれから起きるし、折り返し地点を過ぎ、思秋期真っ最中、男の更年期かもしれないオレは、一体どうしたらよいのだろう。

ボーナスがでたら、今年は金額が少し多いはず。やはり傷心を癒す旅に出るしかないだろう。

           (つづく)

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