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【アタッチメント理論】子育てにおけるアタッチメントの重要性と工夫

はじめに
 
近年、「アタッチメント障害(愛着障害)」という言葉を耳にすることが増えています。しかし、実際の意味を正しく理解せずに使われることも多いです。ここでは、アタッチメントの本来の意味と、それがどのように子どもの成長に影響を与えるかについてお話しします。


1.アタッチメントとは何か?

 アタッチメントとは、子どもが特定の養育者と形成する情緒的な絆のことを指します。この絆は、子どもが成長するうえで非常に重要な役割を果たします。アタッチメントには、以下の4つのタイプがあります。

  1. 安定型

    • 分離時に泣いても、再会時にはスムーズに養育者を迎え入れる。

    • 養育者は、日頃から子どものサインに敏感で、過剰に働きかけることが少ない。

    • 子どもとのやりとりがなごやかで、いっしょに遊ぶことが多い。

  2. 回避型

    • 分離時に泣いたり、混乱を示したりすることがあまりない。

    • 養育者は、日頃から子どもの働きかけに拒否的で、子どもが泣いて近づこうとすると遠ざけようとすることが多い。

  3. アンビヴァレント型

    • 再会時に養育者をスムーズに受け入れられず、怒りを示してぐずぐずすることがある。

    • 養育者は、日頃から子どもへの対応が気まぐれで、一貫性に欠ける。

  4. 無秩序・無方向型

    • 養育者に近づく際の動きが不自然でぎこちない、またはすくんで動かなくなることがある。

    • 養育者は精神的に不安定であったり、子どもをおびえさせる行動を示すことがある。

4つのタイプの詳細は、別記事「子どものアタッチメントと安心感:親として知っておきたいこと」を参考にしてください。

2.アタッチメント障害とは?

 アタッチメント障害は、子どもが適切な養育環境を得られなかった結果として生じる深刻な問題です。具体的には、以下のような状況で発生します

①ネグレクト
 子どもの基本的な世話を怠ることです。例として、養育者が、子どもがお腹がすいているにも関わらず、食事の用意をせずに放置する場面が考えられます。このような状況では、子どもが飢えを感じ、不安や孤独を経験することになります。また、養育者が子どもの身体的、感情的、精神的なニーズに応えず、子どもが十分なケアを受けられないことが問題となります。

②養育者の頻繁な変更
 養育者の頻繁な変更により、安定したアタッチメントを形成する機会が奪われます。例として、児童養護施設での子どものケースワーカーの交代が挙げられます。例えば、子どもが特定のケースワーカーと信頼関係を築き、安心感を感じ始めた矢先に、そのケースワーカーが異動や退職してしまう場合があります。このような状況では、子どもは再び新しいケースワーカーとの関係を築く必要があり、安定したアタッチメントを形成するための安心感や信頼感が十分に養われません。

 アタッチメント障害には、「反応性アタッチメント障害」「脱抑制型対人交流障害」の2種類があります。

①反応性アタッチメント障害
 誰にも助けを求めず人との関わりが極端に少ない場合です。例として、学校でのクラスメイトからの誕生日パーティーの招待を受けたにも関わらず、自分からは誰にも声をかけず、一人で過ごすことを選ぶ子どもが考えられます。このような行動は、子どもが他者との関わりを避け、自己の問題や感情を解決しようとしないことを示しています。その結果、子どもは孤立感や孤独感を感じ、他者との深い関係を築く機会を逃してしまいます。

②脱抑制型対人交流障害
 誰にでも見境なく近づき
、親しげにふるまう場合です。例として、公園で他の子どもたちが遊んでいるのを見て、すぐにそのグループに加わり、自分も一緒に遊ぼうとする子どもが考えられます。このような行動は、一見子どもが他者との関係を容易に築き、社交的であるように見えます。しかし、実は子どもは自分の行動や他者との関係を適切に制御できず、過度な親しみや過剰な依存を示しているのです。

 これらの障害は診断が必要であり、日常的なアタッチメントの問題とは異なります。

3.日々の育児でのアタッチメントの形成

 安定したアタッチメントを形成するためには、日々の養育スタイルが重要です。以下のポイントを意識することで、子どもとの絆を深めることができます。

①一貫した対応
 子どもが泣いたら抱き上げてあやすなど、基本的な対応を一貫的に続けます。養育者の気分次第で抱き上げないときがあるのは望ましくありません。例として、夜中に子どもが悪夢で泣き始めたときに、親がその子の部屋に急いで行き、抱きしめながら「大丈夫だよ、ママ(またはパパ)がここにいるから」と優しく声をかけることが考えられます。このような行動は、子どもが不安や恐れを感じているときに、養育者が積極的に寄り添い、安心感を提供することで、子どもの心を落ち着かせることができます。

②子どもの個性を尊重
 
子どもは一人ひとり異なります。例えば、ある子は食事の好みが特定のものに偏っていて、他のものを食べようとしないかもしれません。また、発達障害を持つ子どもは、コミュニケーションや行動において他の子と異なる特性を示すことがあります。しかし、どんな子どもでも受け入れ、彼らの特性を理解して接することが大切です。

 例えば、食事の好みが偏っている子に対しては、その好きな食べ物を提供しつつ、新しい食材を少しずつ取り入れてみることで、徐々に食事のバリエーションを増やしていくことができます。また、発達障害を持つ子どもに対しては、彼らが快適に過ごせる環境を提供し、コミュニケーションや行動に対して理解を示すことが重要です。そのような配慮が、子どもの安心感と成長につながります。これらの方法の具体例は私の別記事でたくさん紹介しています。いくつかの記事のURLを載せておきますので興味があればぜひ読んでみてください。

 ・みんなと遊ぶときにルールを守れない
 ・パニックを起こすと、感情がたかぶって抑えられない
 ・整理整頓が苦手
 ・衣服のこだわりが強い

③養育者の健康
 養育者が心身ともに健康であることが、子どもに安定した愛情を注ぐために不可欠です。例えば、養育者がストレスや不安に苦しんでいる場合、子どもはその影響を受けてしまいます。また、親が仕事でストレスを感じていると、家庭でのコミュニケーションや関係に影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、養育者が自分自身の健康に配慮し、ストレスや不安を適切に管理することが重要です。また、養育者が心身の健康についてサポートを求めることも大切です。例えば、友人や家族に相談し、支援を受けることで、ストレスや負担を軽減することができます。周囲のサポートを積極的に求めることで、養育者は子どもにより良い環境を提供し、安定した愛情を注ぐことができます。

4.特別な支援が必要な場合

 特定の発達障害を持つ子どもには、さらに配慮が必要です。

①ADHD(注意欠如・多動症)
 ADHDの子どもには、予測可能な環境が重要です。例えば、家庭や学校でのルーティーンを定期的に繰り返すことで、子どもが日常生活の流れを把握しやすくなり、衝動的な行動を抑制しやすくなります。また、予期せぬ変化を最小限にするために、スケジュールや計画を子どもと共有し、新しい出来事や環境への適応をサポートすることも有効です。

 ADHDの子どもへの具体的な支援方法は、別記事「ADHDの子どもを持つ親へ: 理解と支援の大切さ」を参考にしてください。

②ASD(自閉スペクトラム症)
 ASDの子どもにとっても、安定したルーティーンが重要です。こちらもですが、毎朝同じ順序で起きてから朝食をとり、学校に行く前に同じルートで通学し、同じ時間に帰宅して家庭での活動を行うなど、予測可能な日常のパターンを提供することが有効です。これにより、子どもは理解しやすく、不安や恐怖を感じる可能性が減ります。また、新しい状況や変化が発生する際には、子どもと十分に準備をしてから変更を導入することで、彼らの安心感を保つことができます。

 ASDの子どもへの具体的な支援方法は、別記事「自閉症の子供を持つ方へ」を参考にしてください。

 保育園や学校など、家庭外での安定した関係も子どものアタッチメント形成に役立ちます。多くの大人と安定した関係を築くことが、子どもの安心感を高めます。

最後に
 
子育ては決して簡単なものではありません。しかし、日々の小さな積み重ねが子どもの安心感と信頼感を育みます。どんなに手のかかる子どもでも、適切な対応を続けることで、安定したアタッチメントを形成することが可能です。あなたの愛情と努力が、子どもの未来を支える大きな力となります。

 日々の育児に疲れたときは、ぜひ周囲のサポートを頼りにしてください。そして、あなた自身の健康も大切にしながら、子どもとの大切な時間を過ごしてください。

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