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レインボーな彼女~その3~

わたしがね、小学生のクラス替えで始めて同じクラスになった、それが薩摩さん。
女の子なのに、黒いTシャツを着ていて椅子に座って静かに本を読んでいた。
かわいい、と思った。
でもね、薩摩さんは可愛いだけじゃなかったの。
勉強もスポーツもなんでも出来たの。
クラスの男の子のほとんどが薩摩さんのこと好きだったみたい。生徒会とかの役員もして、本人は普通に誰にでも気さくに接していて、女の子からも好かれていた、人気者だった。
先生たちもお気に入りだったし。
わたしとは雲泥の差だった。
薩摩さんは剣道を習っていて、性格もしっかりしていて何も非の打ち所がなかった。
わたしみたいになんにも持ってない人間もいれば薩摩さんみたいに何でも持っていて、
努力すれば認めてもらえて、誰にでも好かれる人もいるんだな。
小学生でも高学年になってきたら、女の子はグループ作るよね。薩摩さんのグループがクラスの中心だった。薩摩さんはいつも楽しそうだった。
同じ班になって誰かの家に集まって班学習するという宿題が出たとき、男の子がふざけてわざと怖い話をして部屋の電気を消して真っ暗にして女子がキャーキャーゆうのを楽しんでたときがあった。わたしのとなりに薩摩さんが座っていたの。怖い話が苦手なわたしが薩摩さんの手にそっと触れると、薩摩さんは思いっきりわたしの手を振りほどいた。
男子がそれを繰り返しする度にわたしは薩摩さんの手に触れては、振りほどかれた。
表向きは分け隔てなく話してくれているけど内心はそうではないことをそのときわたしはようやく気づいたんだ。

わたしって、自分のことには鈍いの。
気持ち悪かったよね。
わたしはクラスの嫌われ者。いてもいなくても同じ、気づかれないほど存在感が薄かった。

薩摩さんが中学生になって、ポニーテールをして生徒会役員席に座っていたり、バスケ部のレギュラーだったりしたことは、もうわたしには関係ないことだった。

だけど、1コだけ。
わたしはイヤだったことがある。
中学生になると、制服があるでしょう。
で、重要になってくるのがスカートの丈ね。
わたしのときは、長いのはダサいということだったの。でもミニスカートは校則違反だからヒダの入った制服のスカートを手っ取り早く短くするにはウエスト部分を外側に折る。
みんな大体は、一回だけ折る。先輩に目をつけられないように。
わたしも、ダサいからこうしなさいと友達に教えてもらって同じようにしてた。
あのころの女の子って、周りとちがったらダメなのね。




その日はね、なんだかそうゆう気分だったんだ。
いつもは一回しか折らないスカートのウエストを
二回折ったの。
そしたら、廊下ですれ違ったとき、
薩摩さんが「スカート短すぎじゃない?」
って。
咎めるように。
生徒会の役員さんだから言ったのかも知れない。でも、わたしはわかる。
そうじゃない。
ダサいあなたがそんなことしても似合わない、とハッキリ面と向かって言っただけ。

言われて、スカートの丈直したけど、
なんでそんなずっとずっと前のこと、わたしは
まだ苦々しく覚えているんだろう。


大半の記憶は雲散霧消、古い日記は全部捨てたわ
過去に栄光なんてないもの。


わたしには、今かけがえのないものがある。
「ねぇ、翔くん。」
翔くんは今スマホゲームにハマっている。
自分と等身大のスマホ相手に、足でタップしてるから、かなりの運動量になるみたい。

今日はわたしのお休みの日だから、ふたりで
おうちでゆっくり過ごそうって。
スマホは彼が一人占めしているから、わたしは
読書でもしようかな。
読みたかった本がたくさんあるから。


ポケットにすっぽりおさまる彼がわたしの目の前にあらわれてからわたしの毎日はまるで虹のようにカラフルになった。
それまでは、モノクロームの世界にいたわたしは鉛筆デッサンから抜け出して見るものすべてに色がついたように思えた。感情が湧き出してきた。
笑うことが増えた。心の中に火が灯ったみたいに
知らず知らずのうちに微笑んでいる自分に気づく。日々の生活が楽しいと感じるようになった。
そろそろ、喉乾いた頃じゃないかな。
お茶でも淹れようかな。
ふたりぶん。




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