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日本人営業マンの奮闘 in ヨーロッパ Part4

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そして、ドイツへ

会社の辞令を受けてから、数ヶ月後、私はドイツのミュンヘン空港に降り立った。ここは、12年前、人生初の海外出張の時に到着した場所と全く同じである。
私は、当時不安な気持ちでこの空港に到着し、結果、大失敗をして逃げ帰った27歳の自分を思い出した。
あの時、この景色は全体的にぼやけたモノクロに見えていた気がする。

そして、これから始まるヨーロッパでのキャリアに思いを馳せた。
目の前には、色彩鮮やかなネオンや、空港を行き交う人々の表情がはっきりと広がっていた。心はとても落ち着いていた。

「もうあの時の自分じゃない。大丈夫、きっと上手くやれる」

そう自分に言い聞かせ、乗り継ぎのフライトに向かった。

自分の方がうまく出来るはずなのに

約1ヶ月間の前任者からの引き継ぎを終え、本格的に業務が始まった。
私の業務は、主に、日本企業の欧州拠点のビジネスサポートが中心となった。これは、ドイツ人の社長の強い意向でもあった。つまり、現地のドイツ人営業マンが、現地の顧客を担当する。私のような日本からの駐在員は、日本語が出来るという強みがあるのだから、日系顧客を担当するべき、という考えである。

この方針に、私は不満を感じていた。主には、2つの理由で。

  • 日系顧客の欧州拠点は、決定権がなく、結局は日本の本社が物事を決めて、それに従うケースが多いこと

  • 当社のドイツ人営業マンは、すでに高齢で、経験はあるものの、新たに顧客を開拓したり、製品知識を向上する意欲が乏しいこと

そして、何より私の、

「まだ我々のことを知らない人たちに、製品を届けたい」

という大目標を達成するには、ヨーロッパの会社を担当しないことには話にならない、と考えていた。

そのイライラは、どうしても表に出てしまい、会議でもことあるごとに、ドイツ人営業マンの担当顧客に対するアプローチ方法などを進言したり、時には、担当を差し置いて彼らの顧客にコンタクトする、など、営業同志ではタブーとされる行動にもつながっていった。

君は何をしにドイツに来たのか?

完全に空回りしていた私は、徐々に本来アサインされた日系の顧客を疎かにし、欧州顧客の開拓のことばかり考えるようになっていた。
その結果、ある日、既存日系顧客から、「競合へ乗り換える」という突然の通知を受け取ることとなった。
自分の担当の中では、最も大きな顧客であるこの会社からの通知に、私は焦った。すぐに飛行機を手配し、顧客の元へ訪問し、なんとか思いとどまってもらえないか懇願した。
すでに、競合の評価検討を進めているので、はいそうですか、と戻すわけにもいかないとの返答があった。
それでも、なんとかならないか、もう平身低頭でお願いし、最終的には大幅値引きしてくれれば、切り替えはストップする、という、当社には非常に痛い結果となった。

この結果を受けて、ドイツ人社長との面談を行い、こう言われた。

「君のミッションはなんだ?君は何をしに日本から来たのだ?まずは、与えられた仕事をすることが大事ではないのか?」

全くもって、おっしゃる通りである。

欧米では、雇用契約を結ぶ際に、Job descriptionを作成するのが通例であるという。これは、日本語にすると職務記述書と訳せるが、つまりは、

職務のポジション名、目的、責任、内容と範囲、求められるスキルや技能、資格など。特に職務内容と範囲については、どのような業務をどのように、どの範囲まで行うかといったこと

を事前に会社や上司と合意しておく、ということだ。

逆に言うと、この範囲外のことには責任もなければ、権限もないということになる。私がやろうとしていたことは、完全に責任の範囲外であった。

私は、それからは、まず自分に与えられた仕事に没頭することに決めた。
まずは、上司にも周りの同僚にも、自分が会社に貢献していると認めてもらうことが重要だと考えた。

その後、ドイツもコロナ禍になり、顧客への訪問ができないという、営業としては厳しい状況になった。
しかし、やるべきことは変わらない、リモートだからこそ、より密に顧客とのコンタクトを継続した。
気づけば、ドイツ赴任から2年半が経とうとしていた。

年度末となり、自分の活動結果の報告と来季への目標設定のため、ドイツ人上司と面談を行うことになった。
この2年半で、自分のミッションである、日系顧客のビジネスの構築がほぼ目処が立っていた。
業務にも慣れ、周りが見えるようになってきた。
一方で、時間を持て余すようになってきたのも事実であった。

私は、今度は正面から上司に対し、自らの大目標を伝えようと決心した。

「I'd like to challenge something new」

ドイツ人上司は、今回は首を縦にふってくれた。

次回へつづく

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