嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~九の歌~
《むらさきの涙》 原作:小野小町
あの人好きなのにな・・・ちぃとも気付いてくれへんなぁ。
ちっちゃなお鼻をぴょんと押すと子猫の小町が驚く。
紫陽花通り、赤い屋根、あかずながめて梅雨の長雨。
プロポーズずっとズ~っと待ってるんよ。
そやのに、そやのに・・・
あかんたれ(pp.:with a sigh)
(注) そやのに=それなのに。あかんたれ=駄目な人、意気地のない人。pp.:with a sigh=ピアニシモ(極めて弱く)ためいきをつく。
定家 「絶世のアイドル、小町はんのお歌やで。花の色は うつりにけり
いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに」
蓮生 「誰の事、想ってはるんやろかな?」
定家 「そら深草少将やろ」
蓮生 「そうやろか……。なんや違う気もするけど」
定家 「ほんなら、在原業平はん? それとも、文屋康秀はんかな」
蓮生 「秋風に あふたのみこそ 悲しけれ わが身むなしく なりぬと思えば。これはプレイボーイの在原業平はんが逢いに来てくれなくなった事を詠んでいるんやろな。それに比べて、文屋康秀はんは堂々と道行に誘ったわ。その応えが、わびぬれば 身をうき草の 根を絶えて 誘ふみずあらば いなむとぞ思ふ。小町はんは文屋康秀はんについて行った気がするな」
定家 「そないして、最後には小町はんはプロポーズを受けたんや! 幸せな結末やね、この物語は」
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