見出し画像

初投稿と大人の習い事


墨絵を習い始めて丸9年。
大人になってからの習い事は学びが深い。
昔から敷居の高い芸事という認識だったので、自分が習うなんて将来的にもないだろうと思っていた。

始まりは母の気まぐれ発言から。
「今のところ引っ越しして、仕事を立て直した方が良い気がする」と突然、神がかったようにわたしに言ってきた。
家の更新も近づいていたので、ちょうど良いかもと、母の「その案」に乗ることにした。

兼ねてから憧れだった下町へと居を移し、下町の風情を味わいながら映画やドラマで見たことがあるお店、建物、名産品を楽しんだ。
不思議なもので、憧れの環境に身を移し、憧れだった世界観が身近に感じられるようになったら、長年「敷居が高い」と思い込んでいた「墨絵」を習ってみようかな。
と、カジュアルに思えるようになっていた。

絵が下手。
物分かりが悪い。
話のが苦手。

こういったことも踏まえ、馴染みのないとこ、見慣れない人と長い時間、同じ空間で過ごすのが億劫だと思うのもある。

本当に向いてなかったり、先生と相性悪かったり、やってみたいと思っていたけどやり始めたらそうでもなかった。
と、思ったら迷いなく直ぐ辞めようという選択肢を用意しつつ、ネットで探した都内にある墨絵教室の体験会に申し込んだ。

初めての体験教室では、目から鱗ばかりか、自分自身の「癖」「姿勢」など修正していくよな教え方。
長らくフリーランスで生きてきたわたしには、勝手気ままにやりっぱなしてきたことに身をつまされながら、震えながら墨を磨ったのでした。

突然「ヴァイブレーション起きるときってどんな状態?」と先生に尋ねられた。
すこし考えて「動いたとき?」
「動いたときってどんな時?」
「力が抜けたとき?」
「あなたは硬くなって墨を磨っているから、いつまでたってもヴァイブレーションが起きないの」

「…。」

ぐうの音も出ないとはこのこと…と、言わんばかりの放心状態となり、気を取り直し肩を緩め、大きく深呼吸をして改めて墨を磨りなおした。
墨の香りがさっきよりも濃く感じられ、脳の真ん中に入ってきているような状態にもなり勝手に目が閉じていく。

今までずっと緊張して生きてきたんだな。
緩まった脳から、そういった言葉が湧いてきた。

ちゃんとした筆を持つのも恐らく小学生以来。
先生と名のつく人に教わるのも小学生以来。
小学生の頃に習いに行かせてもらっていた絵画教室は、先生が教室のお金を盗んで逃走してしまい已むを得ず終了となった経緯がある。

そんなことを思い出しながら、人生初の墨絵体験が始まっていく。
百均で売られていた和紙とは違い、筆や水、墨に負けない強めの和紙に、初めて墨で笹と竹を描いた。

笹はオタマジャクシのように。
竹はドラム缶のようなスタイルに。

あまりの絵のセンスの無さに、次の一手が出せない。
「絵下手!」のコンプレックスがバクバクと沸き上がってきた。
やばいコンプレックスに乗っ取られそうだ。
と、思いながら次の一手を出そうとした時、「いいの。うまく描くことがゴールなら写真の方がいいじゃない」と、少し距離の離れたところから先生が言ってきた。

先生、後ろ向いてるけどちゃんと見てたんだ…。
と、思ったら、安心したのか目頭が熱くなった。

自由気ままに生きてきて、難しいことがあれば「自分には向いてないんだ」と諦めたり、辞めたり、止めてきたり。
わずか体験教室90分の中で、これまでの人生の反省会が密かに行われてしまった。
教室が終わる頃には、墨絵だけではなく物事の見方や、物事に対しての自身の態度、生きる姿勢を叩き直されたようになっていた。

直ぐ辞めようと思ってやってきたけど、ちゃんと自分を立て直したいと思い、人生のリハビリを兼ね「入会させてください」と、先生に告げると「あなたはこなくていい」と言う返事が。

「え?」

「すぐ辞めるつもりできたでしょう?」

『ええええ???お見通し?なんかわたしから漏れてるの??』
とバクバクしながらもつい「…はい」と入会前に思っていた淡白な意思を告白してしまった。

しばし沈黙が続き、「やるんだったら長く続けるつもりでやりなさい」と言われ、ここで止めのぐうの音。

こころを入れ替え、態度を改め、自分の中の何か安心に繋がるモノや、継続できることを見つけられた喜び。

あれから来年で10年目に入る墨絵。
楽しく、嬉しいと思いながら続いていたわけでもない。

毎朝、なんで習うっていったんだろう。
もう行きたくない。
思った通りに出来ない。
などのもどかしさと、コンプレックスの嵐に苛まれながらしぶしぶながらも通っていた。
その緊張とコンプレックスが外れ始めたのは、初めて教室のグループショーに出展してから。
習い始めて5,6年目あたりになると思う。

作品を一つ仕上げる。
と、いう事が、過去の自分っぽさを終わらせたような感じがしている。
出来ないと思っていたことが出来た。
自分の作品を見て「上手い!」と言われるよりも「面白い!」と言われたことで、褒められて伸びるタイプだと知った。
褒め言葉はいろいろある。
「上手」だけではなく、「面白い」「ユニーク」「瑞々しい」「物語性がある」etc。
言いようがなかったのもあるかもしれないけど、なによりも自分が一つ仕上げられた達成感と、続けられた充実感が勝って一皮剥けたように清々しくもあった。
一つ終わらせられ、やっと「自分っぽさ」が発見できそうでもある。
上手よりも色のグラデーションと、面白さを研究したいとわかったことで、習い事の楽しみ方も深化した。

また来年、おそらく3度目のグループショーが開催される。
過去2回は墨、墨と一色のモノを選んで描いていたけど、3度目は墨と2色で植物を描きたいと思えるようにもなっている。
習って9年間は一度も植物を描きたいと思ってなかったので、大きな成長というか進歩なのではないかと思ってる。
続けた先に変化してくる感受性。
それに追いつくべく、技術を、、、技術が、、、欲しい。

初めてグループ展で出展した作品。
佐賀県にある五ノ宮神社に御奉納済。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?