超短編「親友の夫」

2017年に書いたものです。
私は考えてることがどんどん変わるタイプなので
読み返しながら、当時こんなこと考えていたのかと自分で興味深く感じます。
男性は基本 仕事を主軸に生きているから、昔も今も変わらないのかなと感じつつ、女性は
仕事か家庭か優先にするフィールドが違うと
微妙に感覚がズレていくかもしれない、、そんなことを書いてみたかったのかもしれません。

■「親友の夫」
親友のミホは優しい。昔からそうだった。
今は、夫と子供と暮らしている。
とかく女性は、既婚と独身と立場が違うと疎遠になるというが、ミホとコズエは違っていた。
ただ正確には、コズエは婚約者と一緒に暮らしていた時期がある。結婚するものと思っていたが、コズエの母が倒れ病に伏してから、婚約者との関係にすれ違いが生じた。互いにそれぞれ共に過ごす空間を重荷に感じるようになっていった。次第に食事も別々なのが普通になってくると2人共に、もう結婚は無理だろうと思うようになっていた。

一人暮らしになったコズエの世話をやくミホ。
コズエの両親が健在でないことも案じて、ミホはコズエの体まで気にかけていた。
そんなある日、コズエが入院をすることになった。ちょっとしたポリープの切除手術だが、父は亡くなり、母は病身のコズエには、万が一手を借りるとしたら、一番近いミホの手を借りるしかなかった。
単身者の入院サポートをするには、ハウスサービスの派遣などもあったが、安くはないし、事情のわかる身内のような存在の人の方が頼みやすいし、予約制なのも手間だった。
ミホが手を放せない時は、ミホの夫が手助けしてくれた。
そんな風に、ミホの夫が、親類のような存在になっていき、コズエの胸の内に変なわだかまりができた。
妻のミホの頼みごとを快く受け入れ、甲斐甲斐しく動く夫。心優しい仲睦まじい夫婦の姿。有難い親切な存在の二人。
それとは対照的に、他人の手を借りるしかない惨めな自分。
いつしか、コズエの屈折した心は、親切な二人が、「幸せを見せつけられてる」ような存在になっていった。
この苛立ちを露骨に出せば、「独身女のヒステリー」と世間やドラマでお決まりの陰口の恰好のエサになる。

それに、かけがえのない親友を、くだらない嫉妬で失うことも、愚かしいことだと、まだ冷静な部分のあるコズエの心根が気づいていた。

「ミホ、もう私は大丈夫だから、家族水入らずの時間を大事にしてね」
「あんまり優しくされると、私が正幸さんのことを好きになったら、ミホも困るでしょう?」

それから、ミホとは会わなくなった。

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