超短編「腕枕」

「腕枕」(2016年)


初めて腕枕をした時、甘い気分はものの数分で、人間の頭のずっしりとした重さとシャンプーと入り混じった頭皮の匂いに生々しい感覚を知った。
一般的に、頭の重さは4~5kgほど。確かにすぐ腕が疲れるはずだ。
それでも真っさらな気持ちで彼女に腕枕をすると何やら自分の知らない彼女の様子が目に浮かぶことに気づいた。

爪切る姿と派手に散らかった部屋。
母親らしき女性と口論する姿。
おばあさんに何か説明してる。
仕事しながら指をならす。
よくも悪くも、自分の知らない彼女の立ち居振る舞いを垣間見るのが楽しかった。
ある時、異常に頭が重く感じる日があった。何かあったのだろうか?気持ちを彼女に向けてみた。
母親らしき女性と大喧嘩をしていた。そういえば、彼女とこの女性はいつも言い合いをしていた。
目に浮かぶ2人は常に険悪だった。。
こんな日の腕枕はひどく疲れる。疲れるなら彼女の頭の中の覗き見を止めればいいのだが、惚れた弱みで彼女のご機嫌とりばかりしてる自分を振り返る時間でもあった。
たまに見えたことを話して、彼女の反応をみるのも楽しかった。

そのうち次第にお互い関心が薄れた。会う頻度が減り、手を繋ぐこともなくなり、当然、腕枕などしなくなっていた。

それでも人恋しくなる時は2人で会った。彼女が以前のように甘えてきたら腕枕の真似事をしてみたが、もう重い石でしかなくなっていた。見えていた映像はほとんどぼやけて何がなんだか分からなくなっていた。
嫌いではなかったが、寄り添う心と離れた心では、見えるものも見えなくなるように人の頭はできているなと悟った。


















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