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惑星にはなぜ神の名前が付いているのか?

水星はマーキュリー(Mercury)、金星はヴィーナス(Venus)、火星はマース(Mars)、木星はジュピター(Jupiter)、土星はサターン(Saturn)。
これら惑星の名前は、古代ギリシャやローマの神話に登場する神々の名である。
 
5つの惑星(他の惑星は肉眼では見えない)に神々の名前を付けることは、世界最古の文明の発祥地、バビロンで始まった。
水星は知恵の神ナブ、金星は愛と多産の女神イシュタル、火星は戦いの神ネルガル、木星は主神マルドゥク、土星は農耕の神ニヌルタである。
 
現代人には理解がしにくくなっているが、古代の人々の生活は今に比べてはるかに宗教に彩られていた。
わたしたちが神話とみなしているものが毎日の生活の中で身近にあり、何をするにしても祈りや呪術を欠かさず、崇拝や儀式によって生活にリズムをつけていた。
それで、夜空を見上げて特に目立つ星に、子供の頃からなじみのある神々の名前が付けられていることを、人々はごく当然のこととして受け入れていた。
 
加えて古代バビロニアでは、天体の運行を理解し、暦を定めることが重要だった。
それは農作物の収穫など、人々の生活に直結するもので、支配者が良い政治を行う上でも必要なことであった。
それで当時の優秀な頭脳はその分野に流れ、天文学が著しく発達した。
といっても、当時は科学の知識が限られていたこともあり、占星術が混然一体となった、かなり宗教色が色濃い学問であった。
 
西暦前4世紀にアレクサンドロス大王が世界を席巻し、バビロンも支配下におさめると、そこでの進んだ天文学の知識がギリシャにもたらされ、ヘレニズム時代において、天文学の最先端はギリシャに移った。
 
そしてギリシャにおいても、惑星は彼らの神話の神々と同一視された。
水星は商売の神ヘルメス、金星は愛と多産の女神アフロディテ、火星は戦いの神アレス、木星は主神ゼウス、土星は時をつかさどる神クロノスであった。
 
ギリシャ時代が終わり、ローマが覇権を握ると、今度はローマの神々の名が惑星たちに付けられ始める。
水星は商売の神メルクリウス、金星は愛と美の女神ヴィーナス、火星は戦いの神マルス、木星は主神ユピテル、土星は農耕の神サトゥルヌスで呼ばれた。
この呼び方が、現在の英語にまで残り、使われているのである。
 
古代バビロニアでは、天文学と共に暦も発達した。
5つの惑星に太陽と月を加えた7つの神々が、週の7日のそれぞれの日を支配していると考えられた。
 
この考え方が西はギリシャ・ローマに伝わり、東はインドを経由して中国に伝わり、世界中に広まった。
それで、惑星と共に曜日を表す名も、神話の神々に由来していることが多いのである。
 
古代中国では占星術と密接に関連した七曜というものがあった。
5つの惑星(水・金・火・木・土)に太陽と月を加えた7つの天体が、それぞれの日を守護すると考えられた。
その源流をたどるとインド仏教の神秘主義、さらに源流をたどるとバビロニアの占星術に至るものだった。
 
日本において、空海が遣唐使として唐に渡った時、七曜についても学び、日本に持ち帰った。
七曜占星術は平安貴族の間で流行したものの、鎌倉時代に入ると下火になり、七曜はしばらく忘れられていた。
現在の暦は、明治に入り、世界の暦であるグレゴリオ暦を採用するにあたり、古い文献から七曜制を発見し、取り入れたものである。
 
英語の曜日名については少し複雑で、英語の源流がゲルマン民族の言語にあるため、北欧神話の神々が入ってきている。
火曜日Tuesdayは戦の神テュール、水曜Wednesdayは主神オーディン、木曜Thursdayは農耕の神トール、金曜Fridayは愛と美の女神フリッグに関連している。
いずれにしろ、神々に由来した呼び方である。
 
月曜、火曜、水曜という日本語は現在ではまったく色のついていない一般的な言葉だが、由来をたどっていくと、もともとはかなり宗教色が強い言葉である。
 
惑星に神々の名前が付けられていることを考える時、昔の人の生活は神話や呪術、怨念を含めた宗教的なことで彩られていたことに思いをはせよう。
それが歴史を理解するうえでも重要である。
 
 
 
 
 
 

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