ケッキョ ケッキョ        

(パンケーキを食べに行って亡くなった元父へ捧ぐ)


今朝、旦那を送り出す時
ゴキブリが玄関に出没した

冷凍スプレーをかけると速度が落ち
身動きが取れなくなったところを
私に捕獲されてしまった。

このゴキブリの子供達も
昨日の私のように
「パパ、朝まで元気だったのに
朝ご飯食べに行って
死んじゃったんだって」

と騒ぐのかな
なんて思い

それから一人になって
心の中の
父と共有していたスペースを
なんとなく漂っていた。

人は死期を悟るものなのだろうか
それとも
亡くなってしまった人を想うとき
心がことさら敏感に全てを拾い上げているだけなのか

最後に交わした会話は
私達がこれまで交わしたどんな会話より
お互いへの信頼と親しみに満ち
父の言葉は
私の戸惑いや迷いを払拭してくれるものだった。

あれがお別れの言葉なんだろうか
次はいつ会えるかと何度も聞き
会うにもお金が必要になるから
これから彫像を100体は創るんだ
一日一体創るんだと
空海ですかと言いたくなるような無謀なことを言っていた

死ぬ前に少しは私の事も
思い出したんだろうか
などと考えたとき

こんどは庭からけたたましく
けっきょ けっきょと鳴く声がした

庭の木の枝に鳥が来て
ひと騒動を起こし
ぴょうと
やっぱり鳴きながら去っていった

やれやれ
今日は生き物が色々来るな
と思った

お別れをいいにくるんだろうか
こうしてと

そうだとすると
ゴキブリの方は
敢え無く娘に握りつぶされて

いかにもパパらしい。

父が繰り広げたあまりにも下らないジョークの数々を
抜けるような笑い顔と共に思い返した。

Good by my fellow.
adios.
adieu.


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