心の中のギャルが結婚した
20を過ぎた頃。メンタルが弱い僕に、心の中にギャルを飼うことを友達から勧められた。
最初は意味がわからなかったが、どうやらその心のギャルとやらは、心を強くしてくれるらしい。
悩んだ末、僕は心の中にギャルを受け入れた。
ぎこちない挨拶をして初めて絡むギャルに驚きを隠せないまま僕のギャルとの共同生活は始まった。
慣れるのはすぐだった。
聞いていた通り、ギャルという生き物はガツガツしてるし、ここぞという時に心の助けになってくれた。
病みそうな時も、心が折れそうな時もみさはいつも僕と一緒にいてくれた。
(そういえば、みさっていう。デスノートのみさみさから取った)
半年がたったころ、みさはタトゥーを入れたがった。
彼氏の影響か?とも思ったがそこはあえて聞かなかった。
聞いたら傷つきそうで怖いから。
背中に少し小さな蝶々。僕には刺激が強かった。
それでもみさは変わることがなく、優しくて強いみさのままだった。
みさのおかげで僕はとても強くなれた。
バイト先でお客さんと少し揉めた時も、僕だけだったら完全に負けていたところをみさが助けてくれた。
負けんなよ!って、男なら立ち向かえ!って、負けても落ち込むな!って
アイコスのメンソールを吸いながら励ましてくれた。
アイコスに変えたのも彼氏の影響か?って思ったけど、そこはあえて聞かなかった。傷つくのが怖いから。
弱かった僕の心を、みさが変えてくれた。
ある時、みさが自分の名前の漢字を教えてくれた。
美しいの「美」に彩るの「彩」で「美彩」
いい名前だ。
美彩が来てからというもの、僕の毎日は美しく彩られた。
美彩が24歳を迎えた。
折いって話がある。家を出る時にそう言われたけど、なんか怖くて「帰ってきてからね」って誤魔化した。ずっと一緒にいるのに。
僕は怖かった。美彩がいなくなってしまうような気がして。
美しく彩られた僕の毎日が、また色のない日々に戻ってしまう気がして。
その日の僕は機嫌が悪かった。
何度も美彩に当たってしまった。本当に悪いと思ってる。
話を聞いた。僕の予想は当たった。
美彩は兼ねてよりお付き合いしていた彼氏と結婚するらしい。
見た目はどんな人なのか、何の仕事をしてるのか、優しいのか、僕は根掘り葉掘り聞いた。
聞かなきゃよかったと思うぐらいにいい男だった。
どこで出会ったのかというと、僕が仲良くしていた女の子の心の中だった。
僕がその女の子と心を通じ合わせている間に、美彩は美彩でその女の子の中にいるギャル男と心を通じ合わせていたらしい。
悲しかった。通りで僕をその女の子に会わせたがるはずだと。
それでも僕は受け入れるしかなかった。
それはそうだ。ずっと僕の心の中にいてもらうわけにもいかない。
美彩には美彩の人生がある。いきなりきてもらったわけだし、行かないでなんて口が裂けても言えなかった。
美彩が嫁に行く日、僕はまたその女の子と会った。
どうぶつの森の通信かのように美彩はその女の子の中に入っていった。
すると、僕にも入っていた背中の蝶々のタトゥーは消えた。
これだけが美彩が心にいることを感じさせてくれる唯一の眼にみえる唯一の証拠だったのに。
でも僕は一つ心配だった。その子の中にそんなにたくさん人が入ってもいいのだろうかと。
美彩がいなくなってというもの、僕は案外楽しく過ごせていた。
もう会えないのかと思うと寂しかったが、たまに様子を聞きに女の子に会いにいったりもした。
美彩は僕のことを心配してくれていた。
余計なお世話じゃい!なんて思いながら僕は強張った笑顔を見せた。
でも僕は大丈夫。
なぜなら僕はその美彩を受け入れてくれた女の子と付き合ったからだ。
心のギャルより、リアルのギャル。とはよくいうだろう。
僕はたまに、その子に入っている背中の蝶々を見て美彩を思い出す。
こんなことしたら怒られちゃうかな?
なんてね。
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