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古本屋になりたい:29 乱丁・落丁お取り替えします

 私の手元に、ニ冊の乱丁本がある。
 一冊は読むのにあまり支障がなく(人によるかもしれない)、もう一冊は同じページが重複している分抜けているページがある。
 取り替えてもらうことなく持っているのは、ちょっと面白いと思ってしまったからだ。

 ほとんどの場合、書籍の奥付のページに、乱丁・落丁の場合は取り替える旨が記載されている。
 念の為、2012年発行の岩波文庫をめくってみると、乱丁・落丁に関する断り書きがなかった。全ての書籍にあるものではないようだ。ちなみに、2005年発行の岩波書店の単行本にも断り書きはなかったが、昭和45年発行の岩波文庫にはあった。
 角川文庫も、古いものにはあり、新しいものにはなかった。

 古いほど印刷や製本の精度は低かっただろうと思いながら、私が持っている最も古い本、昭和二十二年発行の織田作之助「夫婦善哉」(大地書房)を見てみると、断り書きはなかった。
 戦後の混乱期で、まだルールや慣例が定まっていなかったのかもしれないし、紙の質や製本の粗さをみると、インクなどのコストや活字を組む手間をできるだけ省いた結果なのかもしれない。
 乱丁や落丁があった場合は取り替えます、とは、その可能性が一定の割合であったからこそ意味のある予防線でもあったはずだ。わざわざ断り書きを入れるにも余裕がいる。

 現代では製本の技術も上がり、乱丁防止のシステムもあるそうで、あまり出回ることがなくなったのだろう。
 三千冊に一冊くらいの割合で乱丁・落丁があると聞いたことはあるが、それが正しい数字なのかわからないし、どの段階で発覚したものをカウントしているのかもわからない。

 私のもとに初めにやって来た乱丁本は、新刊を買ったもので、2008年発行の、堀江敏幸「回送電車」(中公文庫)だ。
 225ページから256ページまで、天地が逆に綴じられている。

乱丁のはじまりと
乱丁のおわり

 読みにくいやんか。
 と怒っても良いのだが、そもそも単行本を持っているし、ひっくり返して読めば良いので、あまり困らなかった。
 天邪鬼な子と仲良くしているようで楽しい。

 もう一冊は、平成十年発行の村上春樹・安西水丸「村上朝日堂超短編小説 夜のくもざる」(新潮文庫)。
 33ページから48ページを二度繰り返し、二度目の48ページのあとは49ページにならず65ページになる。
 イラストのページにはナンバリングがなされていないので、気づきにくいかもしれない。

2度目の33ページがはじまる
見開きのはずの水丸さんの絵が半分しかない


 私は、「夜のくもざる」の、49ページから64ページを読んだことがないままだ。これは、私の方が天邪鬼である。
 ネットの古本屋で買ったものなので、私が古本屋をするならば一冊ごとのチェックは怠りなくせねばならないな、と反面教師としている。

 くしくも、本や文章にこだわりを持つ二人の作家の本に、乱丁・落丁があった。
 作家なら誰でも本や文章にこだわりがあるだろうけれど、中でも特別な二人という気がするのは、単に私好みの作家だからだろうか。

 もし、本が世界だとして、同じページを繰り返したり、上下反転したページに突入したりするのは、世界の住人としてどんな気分だろう。  
 筒井康隆の世界のようで、わくわくする。

(奥付のとおり記載したため、西暦・元号、アラビア数字・漢数字、混ざっています)

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