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峠を渡る若い風(1961)

峠を渡る若い風(1961、日活、85分)
●監督:鈴木清順
●出演:和田浩治、清水まゆみ、金子信雄、二本柳寛、森川信、藤村有弘、近藤宏、初井言栄、土方弘、藤田山、杉狂児、刈屋ヒデ子、星ナオミ、藤岡重慶、青木富夫、長弘、久松洪介、山田禅二、光沢でんすけ、緑川宏、二階堂郁夫、織田俊彦、小野武雄、浜田義則、高橋明、戸波志朗、澄川透、清水千代子、高田栄子、横田陽子、武部とき子、ファンキー・ガイズ、日活ファミリーダンシングチーム、島倉千代子、井上ひろし  

オープニングは大学生の主人公・信太郎(和田浩治)が峠を歩いているところに通りかかった旅芸人たちを荷台に乗せたトラックをヒッチハイクするところから始まる。

DVDの解説でも書かれていたが川端康成『伊豆の踊子』×小津安二郎『浮草』のようなストーリー。

劇場やお祭りが舞台になっていることもあり映画は小道具、衣装含めて全体的にカラフルで明るい印象。

喧嘩の最中にかき氷のシロップをシャツにかけると照明もシロップの色に合わせて赤、青、黄色と変わるのが面白い。

信太郎と芸人一座の娘たちが夜、川沿いで花火をするシーンは終わった夏の一瞬の思い出の場面のようで、懐かしさと切なさが胸に去来する。

確かにこのシーンは『伊豆の踊子』の叙情性に通ずるものがある。

ここで信太郎と芸人一座たちとの一回目の別れが描かれる。

ヒロイン美佐子を演じるのは清水まゆみ。

一座の中の奇術担当ということで浴衣や普通のブラウス姿のほかチャイナ服やバレリーナ風などのステージ衣装も華やかで、今作もやっぱり可愛い。


その別れの場面で「わたしBGにでもなって東京で落ち着きたいの。普通の女の生活がしたいのよ」という台詞がある。

BG(=ビジネスガール)という言い方が当時はまだ使われていたようだ。

物語の筋としては芸人一座の運命の方に寄り添っており、主人公信太郎はあくまでそれに同行・付き添っているにすぎない。

信太郎と美佐子の関係も仲のいい友達になった、というまでで止まっていてお互い思っていてもはっきりと「好きだ」とかは口には出さない。

別れる際も抱き合うとかはなく握手をするのみ。恋の始まりのほんとに手前。

若くさわやかで初々しい二人の姿を見ていると、また懐かしさと切なさが胸に去来する。

登場人物がわちゃわちゃと画面の隅々までいるこの映画において信太郎と美佐子が二人きりになる場面はわずか3回しかなく、それぞれ川辺、橋の上、橋の上。

すべて川や橋になっているのは当然意味があってのことだろう。

橋……それは二人の運命が分かつことを暗示する舞台か……

などと思っていると最後の橋のシーンでは「もう少し歩いてちょうだい」と言いながら美佐子が信太郎の腕を取って、来た道を引き返し橋の上を往復するような恰好となる。

もちろん同じ橋の上の道を行ったり来たりしたところで時間が止まるわけではない。

でもそうしたいと思う美佐子の気持ちがこの場面で伝わるので、「好き」なんて言葉なくても十分だ。

この“往復”の余韻をさらに増幅させるように、エンディングはオープニングのシークエンスとは逆の、トラックの荷台から信太郎が降りて峠を歩くというショットで終わる。

やっぱりこういった映像で語るセンスはほんとうに素晴らしい。

2006年発売の『自選DVD-BOX弐』より


追記:鈴木清順生誕100周年ということで、今度はブルーレイBOXが2つ出るらしいけど『峠を渡る若い風』の収録は無し。被ってるの多いけど欲しいなあ……。浪漫三部作4Kは絶対見に行きたい。


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