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皆殺しの天使(1962🇲🇽)

原題: El Angel EXTERMINADOR(1962、メキシコ、87分)
●脚本・監督:ルイス・ブニュエル
●出演:シルビア・ピナル、エンリケ・ランバル、ジャクリーヌ・アンデレ、ルシー・ガリャルド、エンリケ・G・アルバレス


大聖堂のタイトルバック、使用人が一人一人いなくなっていくところから映画は始まり不穏な空気。

舞台となる邸宅の主人ノビレが使用人を呼ぶが現れず、「コートは上で預かります」と言って客人たちを誘って玄関から二階の広間へ移動するシーン。

女中2人が見つからないよう様子を伺いながら出ていく場面なのだが、舞台となる邸宅の主人ノビレが使用人を呼ぶが現れず、「コートは上で預かります」と言って客人たちを誘って玄関から二階の広間へ移動するシーンがもう一度繰り返される。

そしてようやく2人は邸宅から出ていくことができる。

これは一体何なんだ?

監督はブニュエルなので編集ミスなどあるわけもなく、何かしらの意図がある。

カメラアングルが微妙に異なることがまごうことなきそのサインだ。

じゃあ何のサインなのだろう?

直後、「今夜の女神シルビアに」といってノビレが乾杯の音頭を取るシーンもなぜか二回繰り返される。

彼がとち狂ったわけではない。

すでにこの時点で何らかの意思によって、自分の意識とは無関係の行動を取ってしまったということの前触れと解釈ができる。

全ての台詞、全ての行動、全ての小道具、ありとあらゆるものが何かの符号のように思え、何かに読み解くことができるのではと思わせるという意味では、解読レベル最難関の映画と言える。


謎①
忘れ物を取りに来た使用人はなぜ「明日は入れないから」と言ったのか?

謎②
邸宅になぜ熊と羊がいる?

謎③
レティシアはなぜ灰皿を投げて窓ガラスを割った?

謎④
トイレの下に崖が見えた、とかの会話の意味は?

謎⓹
フリーメイソンの二人の会話、HIHHOHって何か意味があるの?

謎⑥
ノビレとレティシアは終盤何をしていた?


■自分メモ用登場人物整理リスト
ノビレ…主人。あごひげ。
ルシア…ノビレ夫人。黒髪、痩せ顔。
レティシア…じゃじゃ馬で処女。ワルキューレ
シルビア…歌手
ブランカ…ピアノ。おばさん顔。
アルバロ…鼻ヒゲ。大佐。ルシアと不倫。
ラウル…フェリーニ似の男。ノビレに詰め寄る。
アルベルト…指揮者。フリーメイソン。
アリシア…若い妻。
リタ…子供がいる。懐妊中。
クリスティアン…おじさん。リタと夫妻。胃潰瘍。フリーメイソン。
アナ…おばさん
アナの弟
ベアトリス…黒髪の娘
エドワルド…30才の建築家。
アナ…怪しい魔術
レアンドロ…ニューヨークからこの街に来た
ルセル…臨終の老人
エレオノーラ…ガンを患っている。
医師
フリオ…執事
熊と羊。


映画内では「何日経ったのか」という台詞もあるが、描写されている限りで時系列順に出来事を記していく。

■一日目
オペラ鑑賞後、ノビレ邸に集まる。

雑魚寝。

夜明け。

■二日目
「なぜそんな目で…ひどいかい?」「いつもより素敵な顔よ」
「地獄耳ですね」

同じような会話が繰り返される。

邸宅どころか部屋から出られない。

トイレには行ける。

ラウルがノビレにお前のせいだと詰め寄る。


■三日目
屋敷の外の様子。敷地内にも誰も入れない。

壁を壊し始め、水道管の水を飲む。

フリオは紙を食べる。

だんだんギスギスしてくる。

ちょっとしたことでケンカしたり、薬を誰かが隠したとか、髪を抜き始めるとか、女に対して臭いと言い放ったり。

「行かないで。1人にしないで」といううわごとが繰り返される。

医師も何もできない。

ノビレが麻薬を持ち出す。

幻覚。手首が動き回る。

熊に追われ、羊たちが部屋に逃げ込んできた。


■四日目
邸宅の外のクリスティアンの子供たち、ヨリは敷地内に入ることはできたが途中で引き戻してしまう。

家具を壊し羊の肉を焼いて食らう。

変な魔術。

エドワルドとベアトリスの心中。

幻覚と幻聴。

それぞれの夢か、あるいは全員の集合的無意識なのだろうか?

ノビレを殺せと殺気立つ人々。

出口を見つけた=風穴を開けたのがレティシア。

あの時と同じ場所で全員が同じ行動をする、という解法はなんとなく理性で納得はできる。

「皆帰りたいのよ」

と、これで終われば一応のまとまりは付くはずだったが、彼らは今度は教会から出られなくなってしまう。

「屋敷から出られない=資本主義の呪縛」、と解釈するのであれば「教会から出られなくなる=宗教による呪縛」というメタファーだろうか。

街は軍に制圧され、羊が教会に逃げ込んでいくショットと人々の叫び声で終幕。。。



ちなみに今回はIVC版のDVDで鑑賞。

一時期は紀伊国屋レーベルのDVDボックスを購入するか、ユニオンのシネマ館で単体で見つけても1万円くらいしていたので、IVCから発売されてさらに安価に鑑賞できるようになって良かったのだが、遠山純生の解説によると既発のDVDでは件の冒頭の繰り返しシーンがカットされていたのだという。

Amazonの商品データで収録時間を見てみると紀伊国屋版は1時間32分、IVC版は1時間34分となっている。imdbでも1時間35分の記載があるので、IVC版の方が完全版に近いようだ。

『ひなぎく』とか『ざくろの色』、『ピストルオペラ』、『イレイザーヘッド』みたいな明らかにストーリーとかどうでもいい”ワケワカラナイ”系映画はあるし、そういう映画もそういうものとして楽しめる。

この映画には明確なストーリー(突然部屋から出られなくなった20人の男女がなんとか出ようと苦闘し、とあるきっかけで出られたがまた教会から出られなくなった)は表面的には存在しているが、そのストーリーが表象しているものがなんなのか理解できない。

最終解答にたどりつかないナゾトキを延々させられているような感じ。

この種の映画が商業レベルで存在しているということが驚愕。

やっぱりブニュエル監督、すごいっす。

DVDの封入物はこんな感じ。

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