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地獄(1960)

地獄(1960、新東宝、101分)
●監督:中川信夫
●出演:天知茂、沼田曜一、中村虎彦、宮田文子、三ツ矢歌子、林寛、徳大寺君枝、山下明子、大友純、大谷友彦

オープニングのタイトルバックからして奇怪。

「ねんねんころりよ」の子守歌が流れ、火葬される棺の次には踊る裸の女たちが映り、喘ぎ声やら、「よーいスタート!」の掛け声、銃撃音など雑多なノイズ。

そして地獄へのイントロダクションが断片的に展開されると、仏教の地獄思想の講義という現実的な場面へとストーリーは転生しここからジックリ進んでいく。

前半は現世、後半は地獄と大雑把に分けることができる。

大学の教室、病院、清水の下宿などとにかく暗い。

映画の前半はほとんどが夜のシーンだったかなっていうくらい暗い。

暗いというかセットなので人工的な黒という感じ。

主人公・清水につきまとうように赤いバラを持って現れる男・田村はメフィストフェレス的立ち回りだが、この男の存在が不気味。

ヤクザを車で轢いて殺してしまった罪にさいなまれる清水だが、その時運転していたのは田村だし、幸子がまたしても自動車事故で死んだのもタクシー運転手のミスである。

「ハハキトク」の電報を受け取った清水が向かった先は、養老施設・天上園。ここから舞台は変わり、ロケ撮影なども増え多少開放感は出てくる。

ここで幸子と瓜二つの少女、サチ子が登場する。

線路の上を歩く清水。

実際的にも暗喩的にも生死の境ということを表現している。

幸子も生前最後に傘を持っていたが、このシーンではサチ子はピンクの日傘と花を持っている。

また、吊り橋の上、赤い傘と花を持って待つ女が、清水と田村が轢き殺したヤクザの情婦であると彼に告げる場面。

ここも先程の線路と似たような生死の境というメタファーであると同時に、落ちたら死ぬレベルの高低差が映像的にも地獄を想起させる。

天上園に巣食う俗物的な小市民たちが繰り広げる饗宴が、全員の死という形で静かに終わりを告げる。

壁掛け時計の振り子が9時でピタリと止まる。

そして一気に映画は『地獄』へ!!

宴の場面が正直長く、ウンザリしていたところだったのでこの鮮やかな展開がシビレます。

ここからはストーリーなどなく、処刑される人間たちと地獄の映像で存分に楽しませる。

現実じゃないからってセット、照明、色彩、何から何までやりたい放題!

地獄で再会する清水と幸子。

遠くで泣く赤子を「あれはあなたと私に授かった子供」「私がつけた名でいい?春美。美しい名でしょ」と幸子。

何とも切ない告白だがその直後に「一人では育てられないからハスの葉に乗せて捨ててしまったの」

そして本当に三途の川を赤ん坊が流れていくという映像のパワー。

その後は阿鼻叫喚の地獄ショー。

幸子「お父さーん!」清水「お母さーん!」のあたりは『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』もフラッシュバックした。

光明の中日傘を差す幸子とサチ子の二人が並んで清水を呼ぶという、希望があるようなそれでいてなんだか意味がわからないようなラストショットも目眩がするほど最高。

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