見出し画像

刺青一代(1965)

刺青一代(1965、日活、87分)
●監督:鈴木清順
●出演:高橋英樹、花ノ本寿、山内明、伊藤弘子、和泉雅子、松尾嘉代、小松方正

背中に刺青を入れた裸の男たちというかなりインパクトのあるタイトルバックから、一人のヤクザ(高橋英樹)が敵の組の頭を刺し殺す場面へ。

傘に描かれた「大和田組」、相手の人力車に吊るされた「戸塚組」のちょうちんのショットがそれぞれ写されるだけで当然説明的台詞はなく、そのヤクザの名前も腕に彫られた「鉄」という字で紹介したという形を取っていたり、カット割りのテンポが速い。

このオープニングに限らず映画全体的にシーンの繋ぎが通常よりもほんの1テンポ速いなと感じる箇所があり、それが清順映画のスピード感というところにつながっている。

さらに”過程の省略”も随所にあり、いきなり板付きで鉄が弟のケンジの下宿先のおかみさんと二人で話していたり、ケンジが勢いで大和田組のヤクザを殺してしまったあと、ここでも鉄とケンジ板付きで二人がボートに座っているところから撮られている。

鉄がケンジの下宿へ向かうシーンとか、兄弟二人がボートに座ろうと移動するシーンなどはない。

満州へ逃避行するために夜、港へ向かい金を渡した直後のカットではもう朝になっていて船は消えている。

ここは「アメリカの夜」方式?のようなので全く同じ構図でただ画面が明るくなったこの一瞬で数時間が経ったことになっている。

ヒロインみどりの母親が風呂上り、夫に抱かれてキスをするシーンも過程省略というか動きのある中での編集なのでジャンプカットに近い。

みどり(和泉雅子)が鉄に「嫌いだね」って言われた後ヤケクソに用水路の中を歩くシーンも同じような手法。

言われた後のリアクションの表情は捉えず、鉄の前から去って悔し気にバシャバシャやるみどりの姿に場面は変わっている。

今作に限らないが役者の顔のクローズアップは極力排しシネスコープを意識した構図での撮影など見所は多数あるが、繋ぎの独特さということでは「かわいそうなのは惚れたってことだよ」(夏目漱石の『三四郎』からの引用?)というみどりの台詞も印象的な別れのシーンも、カメラ位置が徐々にずれていったり何とも不思議な場面で面白い。

他にも車の下から覗くようなショットがあったり、鉄を追う追手の男がストーリーになんら関係なく真っ赤な靴を履いていたり、大和田組の刺客が神戸組の親分を訪問する場面では襖が青と黄色に塗られているのが実はこの時点で少し見切れていたりと「前半80分の前振り部分」だけでも清順ファンなら楽しめる要素が散りばめられている。


そして「本編」の残り約10分のシークエンス。

ケンジが敵のヤクザに斬られ、画面が左から右へゆっくりと赤く染まり、同時にセットの背景の空も真っ赤に染まる。

これを合図に映画は映像歌舞伎へと変貌してゆく。

照明が落ち、鉄一人にスポットライトが当たる。

おゆき(松尾嘉代)から傘を受け取る。

花道を駆けるように雨の中急ぐ。

刺客と見せかけて元ヤクザの徳さんから長ドスを受け取りまた花道を駆ける。

青い襖を抜け、白い部屋へ、そして黄色い襖へ。

照明の切れた闇の中では撃ち放ったピストルが赤く光る。

殺陣は横から縦へと構図を変え、ここで有名なアクリル板越しの真下からのショット。

雨の中の一騎打ちは潔いまでに一瞬で決着がつく。

敵討ちが終わると、鉄は雨の中フラフラになりながら長ドスを固く握る右手の指を、硬直して離れないのか左手で一本一本こじあけてから刀を捨てるというなぜかここは物凄いリアリティでもって一連の鮮烈な清順劇場の幕は閉じる。


今ではプライムビデオで鑑賞できるが、購入していたDVDで見た。

藤木TDCによる解説リーフレットと日活100周年のカタログチラシが付いていた。こういうのは見ているだけでも面白い。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?