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庭で見つけた小さなもの

 午前9時で部屋の温度が12℃。外はどうだろうかと寒暖計を縁側の柱に立て掛ける。カップラーメンができるくらいの時間で確認すると7℃となっていた。吹く風をプラスすれば体感温度はもう少し下がる。
 縁側に立った私はドテラ姿で庭を眺める。
 柿の葉は一枚も残っていない。黒ずんだ枯れ木の状態で寒空を強調した。正月用の水菜はすくすくと育ち、間引かないと今後の生長せいちょうは望めないだろう。
 その斜め奥にあるパセリは繁茂はんもして、こんもりと盛り上がる。夏から秋に掛けてキアゲハの幼虫の餌場となり、絶滅の危機を迎えていたのがうそのようだ。青々とした状態を見ていると想像が膨らむ。
 今の間に刈り取って軒下に吊るし、余計な水分を飛ばす。カラカラに乾燥した状態の物から茎を取り除き、ミキサーに掛ければパセリの粉末が出来上がる。パスタやピザ、クリームシチューに振り掛ければ豊かな香りで食が進む。味まで想像できて、何となく深呼吸をした。寒風と重なって鼻の奥に軽い痛みを感じた。
 善は急げという程ではないが、食用に使っているハサミを持ってパセリの元へ向かう。上から値踏みするように見ていると、信じられない物を発見した。茎に懸命にしがみ付く、一匹のキアゲハの幼虫がいた。黒い幼体から脱皮して最終形態にはなっていた。
 じっと見るもののピクリとも動かない。周囲のパセリの葉に齧られた跡がないので少し心配に思う。背中に当たる部分を人差し指で撫でる。ニュルンと黄色い二つの突起が飛び出した。
 生きてはいるが一桁の温度。食べる元気を失っているのだろうか。私となんの関係もないのだが、パセリの刈り取りをやめた。あの幼虫が蝶になって飛び立つのを待っても遅くはないだろう。

 そんな寒い中、今日が始まる。

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