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『異常 アノマリー』 エルヴェ・ル・テリエ 著 加藤かおり 訳 感想 

(※この記事は前半はネタバレなしのパート、後半はネタバレありのパートになっています)

異常アノマリー
エルヴェ・ル・テリエ 著
加藤かおり 訳  を読みました

アーティスティックな表紙写真に異常アノマリーというシンプルで強いタイトルから、難解で癖の強い作品なんではないか…と、構えてしまった作品でしたが、読んでみたら軽妙な語り口とストーリーに引き込むエンタメ性に優れている上に、SFジャンルでの類型の話はあれど、とても斬新で、わくわくして

でも、自分がこの立場に置かれたらと思うと心底恐ろしい作品なのでした

物語は大きく分けて3つのパートになっており
1つ目では国籍も年齢もバラバラな、幾人もの日常が描写され、それが丹念に重ねられて、この話は何が始まるのか…とぞわぞわしたタイミングで起きる、正に
異常アノマリーな事件に、こいつは面白くなってきましたなあ! とぞくぞくしたのです!
2パートが始まる段階で、この物語は群像劇のとびきり凄いものになるに違いないと感じたので、巻頭の登場人物表を書き写しました

字が雑


(以下ネタバレの感想になりますので、閲覧注意下さい)

物語の中盤では、前述のメモに書かれた7人と他200人近くの人物が乗ったボーイング旅客機が、約3ヶ月の先の未来へ突如出現します
しかし、その世界には既に3ヶ月前にボーイング旅客機は無事に着陸しているのです
つまり、旅客機に乗っていた乗客が3ヶ月の時間経過をまたいで、増えてしまった! という状況が、この物語の主な装置なのです
新しく現れた人々は、元々の人たちと3ヶ月分の時間差異以外には、記憶やDNAなど何ら変わりはなく、間違いなく同一の人物が増えた状態です
この現象が起きた原因は何なのか? と様々な議論が交わされますが、これといった結論は出せずじまいになります(無理もない)
そして、増えてしまった旅客機の乗客たちは隔離施設に留め置かれ、彼らをどう扱いケアをしてゆくか? という試行錯誤するパートも、とても丹念で読み応えがありました

そして、ついに増えた人たちと元々いた人たちが、対面を果たすパートに入るのですが
その段階までに、会ってから彼らはどうなるのか? という予想を書き出してみました

ニアピンもありつつわりと外してた

3ヶ月先の未来へ現れるというタイムワープと
同一人物がコピーされたように増えてしまう、という現象が組合わさることにより生まれるドラマが、実に濃密で面白いわけです
3ヶ月前には、恋人と別れていなかったとか
3ヶ月前には、発表した曲はバズってなかったとか
3ヶ月前には…自殺しておらず、ちゃんと生存していたとか
人によってその3ヶ月間の変化がそれぞれあり、自分自身と会って仲良くなる人もいれば、自分のもつ権利を誰かと分かち合うなどできるか! とめっちゃ喧嘩になる人もおり、その相剋と相生みたいなややこしい人間関係がたまらなく面白いのです
繰り返しますが、群像劇のとびきり凄い、究極のものかも知れません

増えた人たちと、もともと居た人たちで、幸せになれた人たちもいれば、不幸な末路を迎えた人たちもいるし、あまりに理不尽な災禍にあった人たちもおり、
でも、このタイムワープとコピーの現象が現実に起きたとしたら、世間や世界はきっとこのような反応をするのだろうというリアリティが、とても面白い作品でした

あと、個人的にすごく納得のいったエピソードとしては
増えた人たちの中に、もう一人の3ヶ月分の先を生きていた側は自殺をしてしまった、しかし自分は生きているし3ヶ月先の自分が命を絶った理由は見当がつかない…という人物がいました
自殺をしてしまう人って端から見て理由が分からないとか、そんなことするとは思わなかったとか、そう言われる事がありますが、それの最も強烈なものだと感じました
死を選ぶ人の、その時の精神状態って急性的な鬱状態であり、本人すら(その時の自分が何故死を選んだか分からない)という描写はすごくリアルに思えました

亡くなった人も、生き延びた人も、2人になったけど2人とも亡くなってしまった人も、
あの旅客機に乗り合わせていた人は、実に多様でひとりひとりに物語があって
それは今ここで、この本を読んでいる側にも変わらない、色んな人があちこちでそれぞれ生活して暮らしているんだ、という月並みですが、そんなことを改めて感じた次第でした

ところで、最後のシーンと記述のフォントがバラバラに消えてゆくシーンについては、個人的に解釈を定められなかったので、しばらく寝かせて考えようと思います。

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