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天災or人災

 日常化する“天災"は、本当に天災なんだろうか…?


佐藤 隆(38歳) 公務員

 テレビやネットを見ると、豪雨や土砂崩れがいろんな場所で起きているシーンが画面に流れ、当たり前の事だけど“無味無臭"で災害の場所の空気感などは解らない。
 “記録的な豪雨"とか、“今まで体験した時のない様な…"とか日常用語の定型文が添えられ聞いた事がある人は多いかもしれないが…、“これは本当に天災なのだろうか…?"と感じながら災害の場所へ公用車で視察に出掛けた。


柿本 瞳(29歳)不動産業

 「コンクリートの建物が建ち並び街の道路は舗装されたアスファルトでとても住みよい街ですよ。」と、熱心に語りながら新興住宅地の不動産の販売をしている。
 不動産販売は簡単なものじゃなくて“仕事を辞めようかな“と思ってみるものの、母の体具合が良く無くて母子家庭だった私達親子は肩を寄せ合い暮らしている。
 頼りは娘の私だからと必死に働く姿に、加川夫妻は惹かれていた。

 「瞳さんの言う通り、風も穏やかで住みやすい場所だね…。」と不動産契約をした加川さん夫妻…。

加川 清(34歳) 会社員


 夏の暑さを吸収し熱を溜めこみ、暑い建物の室内を冷やす為にエアコンを使用する。 
エアコンの室外機からは室内を冷やす為の熱風が出まくり、室内だけが心地よく快適で涼しい…。
 「今年も暑い夏になるから、忙しくなりそうね…。」と、妻の加川友理が清に話していた。
 清はエアコンメーカー勤務の会社員、出勤時間がお隣の久城さんと重なる事が多く、今日も重なり清が「おはようございます、今日も暑いですね。」
 久城が「毎日、暑くてバテちゃいますね…」と、清に話し“電気自動車"で出勤をした。

久城 雅治(40歳)会社

 “一人娘の父親"の顔を持つ久城は“環境意識"が高く、電気自動車で出社後に図面を片手に道路工事の現場へと向い、久城は工事の完成検査をしていた。
 交通渋滞緩和にむけて作られた道路は川沿いを整備し橋を渡り、アスファルトで綺麗に造られていて川の水面を横目にし自動車が行交う光景を想像すると美しい仕上がりだ。

 設計に携わる久城は交通量や過去の雨量や風速を考慮して創られた道路に“合格"のサインを書類に記名した。

田中 慎(45歳)自営業

 真夏の暑さの外からドライブインに入ると涼しく、汗をかいた体が喜ぶ。
 久城が合格とサインをしたあの新しく出来た道路のお陰で配達の仕事は順調になり、昼食も少しゆっくりと出来ている。
 物流の仕事は止まる事が出来ない、人間の血液みたいな仕事だがそれを担う配達の仕事は大変で休む時間すら削られでしまいがちだが、新しい道路はそんな彼に時間の余裕をくれた。
 再び田中は“排ガス規制適合車"と書かれたステッカーの貼られたトラックに乗り、川面を見ながら走り出すトラックの運転席からは遥か彼方にソフトクリームの様な雲が見えていた。
 

沢口 知美(59歳) パートタイマー

 田中の立寄ったドライブインで、「お待ちどう様、かつ丼!」と沢口が運んでいた。
 毎日いつもの様に「お待ちどう様…!」と、お客と挨拶し言葉を交わし日々の積み重ねながら、子供を育てそして巣立ち、人並みに一戸建てを購入し来月で長い住宅ローンが完済する。
 「お疲れ様でした。」と洗い物を済ませ店を出ると、川の水面が暗く澱んで土色になっていたが“山間部で雨が降ったんだな"と気にも止めずに家へと戻った。
 家へ帰る道すがらには、不動産屋の柿本の勤めている会社が造成し販売した家が建ち並び、そこに連なる様に加川や久城がその場所へと移り住み街が出来ていった。
 知美は新しく造成された街並みを眺めながら「ここは幼かった息子とホタルを見ていた所だったな…!」と、思い浮かべながら通り過ぎていた。

洪水視察

 佐藤が運転する公用車が警察に止められたのは通行止めの為で、洪水被害の大きさは想像を遙かに超えていて言葉を失った。
 川の傍に田んぼを潰したり山を削ったりして造成されて建ち並ぶ家々の数は増え続け、アスファルト舗装された道路は自動車社会には必要だけれども……、一度雨が降るとアスファルト舗装は水を“吸収"しない。
 集められた雨水は側溝へ行き、集められた雨水は川へと流れて増水を加速させてはいないか…?
“この街造り"は正しかったのか…?"
 そんな洪水の被害地に、来月で完済する沢口の家や久城、加川の家が建ち並び人生すら変えてしまっていた。
 理系ではない、佐藤の疑問…。

眞中 愛佳(3歳) 女の子

 洪水の被害地から、10kmも離れていない昔からある町に住む。
雨が止み何も無かったかの様な真夏の晴天でサウナにいる様だが、3歳の愛佳はやっと晴れてお散歩を母にせがみ、散歩をしながら母とお話をしていた。

 愛佳はテレビで見た洪水の光景を、「あの場所は何処…?、お母さん…!」すると、母の紗絵が「お隣の町だよ、洪水で大変なんだよ…」
「大きなプールみたいだね!」と、幼い愛佳が母を見上げて言う。
 不意に繋いでいた手を離した愛佳の視線の先には、雨で壊れた巣を“アリ達"が作り直している…。

 照り付ける太陽の熱がアスファルトの道路に“蜃気楼”を作りだす中を、愛佳は歩いている…。
 人間が創り出した“まほろば"は、幼い愛佳の未来に大きな影を落としてはいないだろうか…?
 幼い子供達の未来に影を落とすのなら、それは既に“まほろば"とは程遠い……。

 日常化する災害“天災or人災"……?
 
 …………………… 終 ……………………
 
 


 



 
 
 

 


 


 
 

 

 



 



 

 
 


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