見出し画像

小説:狐018「怪談とマニさん」(545文字)

「フン! くだらないですよ」
 シンジさんが帰ったのをいいことに、マニさんが顔をしかめて語る。
「陀田トンネルに限らず、だいたいの心霊スポットなら、“いないはずの女性の叫び声が聞こえる”なんて、よくある話じゃないですか。これは知っているとか知らないとかそういうレベルの案件じゃありませんよ!」
 マニさんが感情を露わにする。“陀田トンネルでは、いないはずの女性の叫び声が聞こえるという噂がある”というところまで押さえていなかった自分に腹を立てているのだろうか? 彼は知性、いや知識量や情報量について絶対の自信があるようで、その部分について指摘されたり、自分が少しでも不利になるといつもの冷静さを失うようだ。
 私のように学のない人間、無教養を受け入れている人間にはよく分からない心理だと思った。当人が大切にしていることだからこそ、そのポイントについてはセンシティブに反応をしてしまう。そんな所だろう、と考えていると、エロウさんがふいに、
「マニさんってさあ。子供の頃、どんな子だったのかなぁ?」
 と切り出す。
「ああ、普通の子供でした。でしたけど」
「でしたけど?」とエロウさんがその含みの部分に触れようとする。彼女らしい迫り方だ。
 マニさんが珍しく、3分の2残っていたモスコミュールを一気飲みして語る。

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,493件

いつもどうもありがとうございます。