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存在しない小説の読書感想文:創作

『アンダースローガールとパンナコッタの決意』(鶏冠とさかとんび)


※本記事はネタバレを含みます。

 高校2年の夏に『ペンネの島とミトコン・ドリア味の嘘』を読んで以来の鶏冠体験でした。
 本書『アンダースロー』は、『ペンネ』よりも読みやすかったと思うのですが、それは私の成長なのか、本作が単に平易なだけなのかは分かりません。
 完全に文系人間の私。数学的な用語を出されると迷路にはまってしまいます。ところが不思議なことに鶏冠の作品内では数学の話が、大変カラフルに見えます。

 高校の数学の授業は、味も温度も色さえもない記号をただ単に投げつけられているようでした。猛り狂ったハンマー投げ選手が全方向に虚数の鉄塊を投じます。そんなもの受け止められますか。

 さて、ここからはネタバレありで書きますので、適宜ブラウザを閉じてください。

※ ※ ※

 主人公の蝉原のり(せみはらのり)は、第二章後半辺りからヤマアラシになりますが、そこに至る流れ・経緯・いきさつが大変スムーズなんですよね。いつの間にかヤマアラシになっている。「あれ、もしかして、のり、ヤマアラシになってない?」と多くの読者は思うはずです。そのいわば変身ポイントがここだ、と特定できないところが本書の醍醐味かもしれません。ほかの方の感想文を拝読しますと、色々な解釈があって刺激的です。ちょっと紹介します。


・体育祭の借り物競争にて毛皮を受け取る。その際、一瞬にして変わったとする説。

・同じサークルの2つ上の先輩、赤新あかにいさんと二人きりのシーン。ふざけ半分に唇を重ねた際に変わったとする説。

・カラオケのシーン。恥ずかしいからという理由で、ラップの部分を後輩のユキヤ(のりとは同期)に歌わせる赤新さん。ユキヤが韻を踏んでいくにつれて徐々に変わったとする説。

・冒頭から既にヤマアラシであり、自分が蝉原のりだと信じ切っているヤマアラシの意識の物語だったとする説。


 変身文学のトップランナーとしては、鶏冠とんびのほかにも、鋳型玄多いがたげんた岩鷲釣果いわわしちょうかがいらっしゃいますよね。

 また海外に目を向けると、ジミー・ルクティー(オーストリア)、セイジ・イガラシ(イギリス)、ロートブーフ・シュバインエッセン(ドイツ)、グウェンティ・コックチャップ(タイ)が主な作家でしょうか。

 このあたりの分野にもう少し分け入ってみようかなと思います!!

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