見出し画像

小説:剣・弓・本025「不可解」

025
【セド】

「もっと速く走れるでしょ!」とネネが俺の方を振り返って言い放つ。
 いつの間にか『睡りの塔』の内部にいるようで、石造りの階段をひたすら駆け上がっている。ネネが俺の前を走っているのか。追い抜かれた? いつ?

 いや待て、そもそもおかしいぞ。あの時、ネネは倒れ込んでいたはずで、そこからの流れが思い出せない。どうなってんだ。

 それと、この階段、どこまで続く? この『睡りの塔』の高さは? 
 一体何段駆け上がってきたのか? 今、何階に相当するんだ? あとどれだけ昇ればいい?
 モンスターや敵の類にはまだ出くわしていない。どこに、どんな奴が、どの程度いるんだ?

 こんな時、やはり、学術士がいて欲しいと気づく。ライのような人間がいるからこそ、俺は戦いに専念できるんだな。
 俺にはあいつが必要なんだ、と痛感する。


 やがて広間にたどり着き、俺もネネも足を止める。
 いくつもの巨木のような石柱が天井を支えている。窓はなく採光できないが、柱のところどころにランプが置かれていて、視界は悪くない。

「遅かったじゃないですか。セドさん、ネネさん」
 柱の裏から人影。聞き慣れたその声の主はライだった。
「え、ライか! 会いたかったぜ! 
 でも何でだ? 俺らが先行してたはずだよな」
「ハハハ。そう思いますよね」
「なあ、ライ。笑ってないで教えてくれ!
 何でお前が先にここにいるんだ?
 この『睡りの塔』って一体何なんだ?」

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?