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ゴルゴンゾーラは装備できません

虹猫にじねこ学園高校ラクロス部のマネージャー、ミヤノクルミは図書館である本を手に取り、気になるところに目を走らせていた。

……

僕が真に考えたいのは配膳ロボットや【黄色いユニコーン】のことではなく兄の死因だった。とにかく、今、僕の兄はいない、この事実は揺るがない岩であり、かつ今このテーブルの上にある飲みかけの炭酸水の泡一粒であるようにも思えた。岩と泡。それは全く別物のはずで、そのことは分かっているのだが、それでもそこに相似性を見ていた。
 兄はいないが、ここに遺された彼の著書『蝉の抜け殻とワオキツネザル』がある。

 隣の席からはマルガリータピザの香りが流れ着き、この小さな島国は、ほんの一瞬だけシチリアの港町になった。それは錯覚かもしれないし、あるいは、実際にその港町になったのかもしれない。それは判断のしおりを挟むことのできないページ無き読み物であった。

 自分の癖に気づく。セルフサービスにて紙おしぼりを多めに取ってしまう癖。一枚で済むのにもう一枚をプラスしてしまう。
 紙おしぼり。使い捨てられてしまうそれ。使われ、そして、即捨てられてしまう運命を持つモノ。紙おしぼりは、自意識の中で、そのことに納得しているのだろうか? 自意識を持つ私、自意識を持っているかどうか疑わしい紙おしぼり。

……

『ゴルゴンゾーラは装備できません』
(セルゲイ・ボスフォラス 作 / 山田ひじき 訳)

持つ、という言葉に意識が及んだ。フィンランド人留学生へルミの言葉を思い出す。

『わたしたちは、持つ(have)という言葉を知りません。その代わりにだれだれさんの側にあるという言い方をします』

へルミ(フィンランド人)

所有の概念そのものが日本人と違うのかなあ。

それにしても【黄色いユニコーン】って何だろう? そういう料理のメニュー名?
主人公のお兄さん、亡くなったみたいだけど、何があったんだろう?

それにこの『ゴルゴンゾーラは装備できません』ってタイトル、何だろう。よくロールプレイングゲームで、武器や防具以外のアイテムを装備しようとすると、こんなようなメッセージが出るけど、そのことかな。まあチーズは普通装備しないよね。

それともゴルゴンゾーラという名前の武具があるのだけれど、まだゲーム上の条件を満たしていないから装備できないだけかな?

クルミは思案に思案を重ね、その本を買うことにした。
買うってことは持つってことになるのか。
へルミの言い回しだと、この本はわたしの側にあるものになる、か。

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