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小説:狐024「ボウリング」(1006文字)

 ゴロゴロゴロゴロー…… ガッシャーン!

「っしゃー! ストライク!! どんなもんだぁ」
 スミさんに誘われボーリング場に来てみた。平日の夜なのでかなり空いている。大学生風の男女混合グループが一組。一番端のレーンには一人で黙々と投げ込んでいる男性ボウラーがいる。

……先日の『狐』にて。スミさんが、
「久々にボウリングしてえなあ。今度みんなで行ってみねぇか?」
 と思いつきで発言する。それに快諾したのが私と意外にもヒトエさんだった。

 ヒトエさんは、スミさんとハイタッチした後
「それにしてもみんなノリ悪いですよね。『狐』の外で会うことに抵抗感あるのかな?」
と言い、透明な炭酸飲料を飲む。
 どうだろうか? 『狐』という場は確かに特殊だ。『狐』に入った彼らはその時点で、『狐』の外の彼らではないのかもしれない。
 だから『狐』のみんなに、“『狐』の外の自分”を見せることに、気恥ずかしさ、煩わしさ、面倒臭さがあるのではないだろうか。
 私がスミさんの話にのったのは(まあ暇なのが第一だけれど)、彼があんなにまでボウリングの腕前を自慢するからそれを確かめてみたいのと、久々に自分もやりたいなという純粋な気持ちからだった。
「ボウリングってさあ、機会がないと行かないよね」とヒトエさんは言っていたが、まさにその通りだと思った。まず独りでは行かない。

「重力加速度に…… 位置エネルギーと動摩擦係数、回転数と…… 入射角度が……」
 ヒトエさんがぶつぶつ言いながらスマホを操作している。宇宙物理はボウリングに応用できるのだろうか。
「ヒトエさんの番だぞー。お、計算してんのか、さっすが学者さんだねー」とスミさん。
「よしっ、完璧!」
 ヒトエさんのフォームは美しかった。投げ終えた後のフォロースルーも様になっていた、のだが……

 結果はガーター。
「おっかしいなぁ。 ……あっそうか」

 その後のヒトエさんの成績は、全てストライクだった。他に考慮すべき変数を見つけたのだろうか? あるいは元々上級者だったのかもしれない。

 帰りがけにヒトエさんはこう言い残した。
「ねぇナリさん、今度『狐』で、“ボウリングとは何か”、についてディスカッションしません?」
 ヒトエさんの瞳が輝いた。ヒトエさんらしいと思った。
 緻密な数的処理をはじめたかと思えば、数値の入り込む余地のなさそうな概念的で哲学的な命題にも取り組もうとする。
 ヒトエさんのスタンスにはいつも感服する。

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