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小説:剣・弓・本018「急襲」

【セド】

 ねむりの塔へ向かう俺たち。隊列としては前から俺、ネネ、そして少し距離を置いてライ、ナスノだ。もちろんライの提案による。
 森林地帯(と言っても静かの森ほど密ではないが)を抜けると草原が広がっており、地平線の先にはうっすらと塔らしきものが見えてきた。
「おお、あれがねむりの塔ですね。なかなかに美しい姿ではありませんか。私たちを手招きしてくれているのかもしれませんね。到着したらお土産を渡しましょうか」
 ナスノはいつも通り滑稽なことを口走っている。
「………………」
 ネネは黙ったままだ。
 特にナスノが何かを発したあとに、その沈黙の度合いが強まるような気がする。ゼロからマイナスになるような感じだ。確かにナスノの物言いは独特だ。好みはわかれるだろう。ネネはおそらくナスノと合わないのかもしれないな。

 そもそもだが、何でネネは喋らねぇんだ。そういう種族なのか? でも手紙を書く。書き言葉は使えるが喋らないのか? それとも喋れねえのか? でもこっちの言ってることは伝わってるみたいだしな。あとでライに聞いておくか。ただライだからって知ってるとは限らねぇな。あ、ネネ本人に聞けばいいだけじゃねえか? まあ返答は手紙になるか? そんならまたライに訳して貰わねえと……

「か、囲まれてます!!」とライがふいに叫んだので考えるのをやめた。
「気配なんかなかったぞ!」と俺は吐き捨てる。
「無理も無いです波術ですね波術・潜香せんこうの一種でしょう対象者の立てる物音はおろか気配もゼロにします!」とライがいつになく早口だ。
「10、20、30…… 40人はいますね。これだけの兵に術をかけるとは。相当の使い手がいそうですね」

「セド・マァンには死を!! それがゲルステル様のご意志だぁぁ!! ぬうぉりゃーーー!!!」リーダー格の兵が剣を振り上げ叫ぶ。40人程がこちらに向かって一斉に走り寄ってくる。

 そうか、ゲルステルの第二部隊か。ならそこそこ腕の立つ連中だな。しかしこの数はマズいんじゃねぇのか? 捌けんのか?
(つづく)

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