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【怪談】赤ずくめの女

10月のはじめ。
落ち着いてはきているものの、まだまだ暑さが残っている。

その日ワタシは、東大阪に足を運んだ。
昔から不思議な体験をたくさん経験しているという、Hさんという男性からお話を聞かせていただくためだ。

「ベージュのチノパンにベージュの薄いチェックのシャツ。メガネのゴツいオッさんです」

頂いたメッセージをたよりに、あたりを見回す。

背丈が175〜180cm近くあるだろうか。
堂々とした態度ながら気さくな雰囲気を漂わせる人物だった。

「はじめまして!今日はよろしくおねがいします!」
ワタシは軽く挨拶をかわし、さっそく近場の喫茶店に入ってお話をうかがった。

Hさんからは、お話をたくさん聞かせていただいたのだが、今回はワタシにとって一番印象深かったお話を紹介させてもらおうと思う。

踏切

Hさんは仕事の都合で20歳から名古屋で暮らしていた。
地元である大阪に里帰りした、ある月曜日のことである。

平日ということもあり友達とは都合がつかなかった。
行くあてがない彼は、地元の街をぶらぶらと歩き、懐かしんでいた。

時刻にして夕方の4時か5時ぐらいだろうか。
空に赤が混ざってきていたのでそう思った。

カーン!カーン!カーン!カーン!…

下りてくる遮断機の棒の手前、踏切音を聞きながら立ち止まる。
目の前を電車が勢いよく通り、ゴォと空気を揺らした。

電車はかすかに残像を残して走りぬける。
向かい側の線路の景色が見えたと同時に、異様に目立つ女の人がいることに気がついた。

赤いドレス。赤いヒール。
貴婦人がかぶるような大きな赤い帽子を身につけ、赤いパラソルをさしている。赤ずくめだ。

さらには、体格がよいHさんと同じぐらいの背丈だったらしいので、女性にしてはかなり大きい。帽子に隠れて、顔はよく見えない。

街の雰囲気に似つかわしくない、その異様な出で立ちに目を奪われていた。

遮断機の棒が上がり、止まっていた人々が歩きはじめた。

その女性は、ちょうど真向かいからこちらに向かって歩いてきている。
お互いに足をすすめ、だんだんと距離が縮まってきているが、女性には避ける気がまるでないように思えた。

そのため、Hさんはその女性の少し手前でスッと右前方に避ける。
すれ違うその女性を、自分の左後ろに感じたその瞬間。

「よくわかったな」

息づかいまではっきりと聞こえる、すごく近い距離。
すぐ耳元。

低い、男性の声が聞こえた。

状況がうまく理解できず、すぐには振り返らなかった。
一体、何が「よくわかったな」なのだろう?

歩みの惰性で2、3歩前に進み、振り返ってみた。
あれっ?すれ違ったはずの赤い女性がいない。

どういうこと…?ドッキリだろうか?
Hさんは、相変わらず状況をうまく捉えることができなかった。

今さっき歩いたばかりの道を少しもどり、あたりを見回したのだが、その姿を再び見ることはできなかった

忘れていた記憶

踏切を待っていた時、赤い女性がいた側の地域は、違う学区だったそうだ。
Hさんは小学生の頃、その学区にある塾に通っていた。

Hさんはこの奇妙な体験を独自の解釈で片付けてしまっていた。
当時、塾に通っていた顔見知りの誰かがニューハーフになったのだと考えていたのだ。

ジロジロ見てしまっていたので、ニューハーフになった当時の顔見知りが、男性の声で「よくわかったな」と言い、足早に去っていった。
そう解釈していた。それですましていた。

デリケートな話かもしれないなと思い、この事は誰にも話すことなく過ごし、そして完全に忘れていたらしい。

しかし数年後、とあるTV番組に出ていた、ある有名人の話がきっかけで思い出すことになる。
マジシャンのMr.マリックさんだ。

池袋で全身真っ赤な女性とのすれ違い間際に「よくわかったな」と男性の声でささやかれ、消えたのだと言う。

自分とまったく同じ体験談を聞いた事で思い出し、そして驚いた。

違和感

もちろんHさんも異様な体験だとは思っていたのだが、明るかったこともあり怖さがなかった。

しかし、思い出したことをきっかけに当時の状況を振り返ると、不可解な点が多すぎることに気がつく。

まず、赤ずくめの女性を見た時、自分以外にも人は何人もいたのだ。
あれだけ目立った格好の人がいると、いやでも視線を奪われるはず。
にもかかわらず、その場にいた誰も、その女性を見ている感じがなかったのだ。

自分の前を走っていった自転車は、その女性の手前で何事もないように避けていき、振り向きもせず去った。
まるで、体だけが無意識に反応して避けたかのようだ。

怪談話を集めているとこういった話がときどきある。
人は無意識に何かを避けたりすることがあるのだが、幽霊が見えている人の目には、ぶつかりそうになっている幽霊を無意識に避けている状況が見えていたりするらしい。

ささやかれた状況もおかしい。
耳元で声が聞こえたのは、女性とすれ違う瞬間ではなく、すれ違った少し後なのだ。

女性側の視点で考えると、すれ違いざま左向きに振り返り、首が伸びてHさんの耳元で話かける。そんな感じだ。
女性がかぶっていたはずの大きな赤いぼうしも、Hさんには一切あたっていない。

そもそも振り返ったのが2、3歩進んだ後とは言え、時間にして数秒。
その間に姿が見えなくなるほど逃げ隠れるのは不可能だろう。

怪異と出くわしてしまったのだと、どうして考えなかったのかが不思議なぐらい、おかしい事だらけだったのだ……

「全身赤ずくめって言ってましたけど、肌も赤かったんですか…?」
腕を粟立たせながら質問する。

「えー……と、そこまで覚えてへんなぁ…
足は…ついってたっけなぁ?どうやろ?はははっ!」

相変わらず気さくに話すHさん。
ゾッとしているワタシをよそに、まるで怖さを感じていないように見えた。

(情報募集)

お話に出てきたMr.マリックさんのお話について何かご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただきたいです。

HさんもたまたまつけていたTVで見たらしく、何の番組だったかとかが全然わからないとの事でした。

ツイッターのDMでも何でも結構ですので、これかもという情報をお持ちの方、何卒よろしくおねがいします。


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