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林泰広【エッセイ】新刊『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』に寄せて
9月22日、林泰広さんの新刊『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいた著者エッセイを紹介します。
完成報告
林泰広
著者校正のゲラが届いた日の夜に、入院中だった父が亡くなりました。
父は「頑張る人」でした。
自分で決めた目標は、パワーと忍耐でなんとしてでもやり遂げることに喜びを感じる人でした。
そういう頑固で一徹なところはいかにも「九州男児」っぽいと言えるのかもしれませんが、その一方で単身赴任生活が長かったので、料理も洗濯も自分のことはなんでも自分で出来るし、また、自分でやりたがる人でした。
だから今年になって急に体調が悪化し、それで入退院を繰り返すたびに、前は当たり前に出来ていたことがどんどん出来なくなっていったのは、本当に悔しくて、もどかしくて、腹立たしくて、悲しかったと思います。
父の病気は心不全でした。
正常な心臓の二割ほどの馬力になってしまっていたので、父の心臓は常にフルパワーで動き続ける必要がありました。だから安静にしている時でも、父は私たちが全力疾走をしている時のような状態だったそうです。
夜ベッドに付き添っていると、本当にずっと苦しそうに息をしていました。私だったらそんな全力疾走のマラソンは、早い段階で走るのを諦めてしまっていたと思います。しかし父は最後まで投げ出さず、何度も何度も危険な状態を乗り越えました。本当に凄かったと思います。
父は全力疾走のまま、行けるところまで走り切ったのだと思います。だからゆっくり休んでほしいです。
入院が決まるたびに、父はそれが私の執筆の邪魔になることを心配していました。
もしかしたらまだ心配しているかもしれませんね。
大丈夫だよ。
ほら、ちゃんと完成したよ。
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《小説宝石 2022年10月号掲載》
▽『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』あらすじ
数百年前と現代、不可知な魔物の力で人々が死んだ。単純に思える惨劇の真相を推理し見抜いたのは魔物だけだった。誰が誰に殺されたのか。人々は何を見、何を間違えたのか。魔術師・林泰広の技が冴える空前絶後のマジック・ミステリ。
▽著者プロフィール
林泰広 はやし・やすひろ
1965年生まれ。1996年に鮎川哲也選『本格推理⑧』収録の「二隻の船」でデビュー。2002年『The unseen 見えない精霊』で長編デビュー。本作は長編第三作。
▽『小説宝石』新刊エッセイとは
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