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大島清昭【エッセイ】新刊『地羊鬼の孤独』に寄せて

11月24日、大島清昭さんの新刊『地羊鬼の孤独』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいた著者エッセイを紹介します。


魅惑の中国妖怪

大島清昭

 妖怪が大好きです。これまで基本的に日本の妖怪を専門に研究を続けてきましたが、妖怪研究の国際化への興味から、ここ数年は中国や台湾の妖怪にも関心があります。

 思えば、私が最初に中国妖怪と出会ったのは、水木みずきしげる先生原作『ゲゲゲの鬼太郎きたろう』の劇場版アニメ『ゲゲゲの鬼太郎 最強妖怪軍団!日本上陸!!』でした。この作品には、天狗てんぐ妖犬ようけん山魈さんしょう黒怪物くろかいぶつ、くしゃみの精、角端獣かくたんじゅう画皮がひなど、個性豊かな中国妖怪たちが跳梁跋扈ちょうりょうばっこし、鬼太郎たちと激しいバトルを繰り広げます。子供ながらに日本妖怪とは異なる魅力を持つ中国妖怪に胸を躍らせたことを覚えています。

 あまり妖怪に詳しくなくても、『西遊記』の孫悟空そんごくう猪八戒ちょはっかい沙悟浄さごじょう牛魔王ぎゅうまおう金角大王きんかくだいおう銀角ぎんかく大王などは、ご存じの方も多いのではないでしょうか。最近では高橋留美子たかはしるみこ先生の『犬夜叉いぬやしゃ』の続編であるアニメ『半妖の夜叉姫』に、四凶しきょう―即ち、窮奇きゅうき檮杌とうこつ渾沌こんとん饕餮とうてつ女媧じょかといった中国妖怪をモデルにしたキャラクターが登場しました。意識して見てみると、中国妖怪は案外身近に姿を見せていたりするものです。

 さて、『地羊鬼ちようき孤独こどく』の地羊鬼も、みんの時代の『雲南百夷篇うんなんひゃくいへん』や『七修類稿しちしゅうるいこう』に記載された中国妖怪です。地羊鬼は、人間が気付かない内に、その内臓や手足を木や土に変えてしまいます。そのため、被害者が亡くなってから、腹を開けて初めて、地羊鬼に襲われたことに気付くそうです。

 余談ですが、本作を執筆中、あるものが突然グルグル回るという不可思議な体験をしました。折角なので、その怪異については作中に紛れ込ませてあります。

 と、うっかり妖怪のことばかり書いてしまいましたが、『地羊鬼の孤独』は連続猟奇殺人事件や密室の謎を描いたミステリです!

《小説宝石 2022年12月号掲載》


▽『地羊鬼の孤独』あらすじ

内臓を模型に変えられた遺体が次々に発見された。一連の犯行を繋ぐのは、現場に残された「地羊鬼」の文字。中国妖怪を模倣した連続殺人らしい。刑事・八木沢は、警部補・林原と捜査を進めるが、事件の全容は徐々に人間の手に収まらないものになっていき―。

▽プロフィール

大島清昭 おおしま・きよあき
1982年、栃木県生まれ。筑波大学大学院修士課程修了後、妖怪研究家として研究・執筆・講演を行う。2020年、「影踏亭の怪談」で第17回ミステリーズ!新人賞を受賞。近著に『赤虫村の怪談』がある。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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