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メフィスト賞がうらやましくて/『入れ子細工の夜』のオビ裏話……など。|ジャーロ編集長日誌【2022年6月ごろ編】

某月某日

東川篤哉さんと吉祥寺で会食。

『スクイッド荘の殺人』刊行の御礼と、KAPPA-TWOの選考日程の相談、それからKAPPA-ONE第一期デビュー20周年特集の話題などなど。

『スクイッド荘の殺人』は今年4月発売

東川さんはKAPPA-ONE第一期の4人のうちの一人として、2002年に長編デビューしました。公募の新人開発プロジェクトをスタートするにあたって、編集部では、指針もなく募集を開始するのは危険だと感じていました。講談社のメフィスト賞がうらやましかったという正直すぎる指針はありましたが、さすがにそれだけで始めるわけにもいかず。

そこで、当時光文社文庫で刊行されていた鮎川哲也編『本格推理』、鮎川哲也・二階堂黎人編『新・本格推理』の2シリーズに複数の短編が採用されている方にお声がけをし、応じてくださった方々の作品(確か18作くらいだったと思います)を編集部で選考、4作を刊行することになったという次第です。

作家のデビューを、公募新人賞の受賞時とするか、デビュー単行本の刊行時とするか、それ以前に短編が商業出版されている場合、そちらとするかは、議論が分かれるところで、プロフィールなどを見てもまちまちなのですが、東川さんの場合は「1996年、「中途半端な密室」が『本格推理⑧』に初掲載。2002年、『密室の鍵貸します』で光文社の新人開発プロジェクト[KAPPA-ONE]に選ばれ、長編デビュー」と、ややくだくだしい表記になっています。これは、『本格推理』シリーズがアマチュア作家の投稿作をセレクトして収録する企画だったため、本書掲載をデビューとするのには違和感があったからです。

以来20年。その活躍は言うまでもありません。デビュー作を第1作とし、著者13年ぶりの長編となった『スクイッド荘の殺人』で9作となった「烏賊川市」シリーズ。節目の10作目も、それほど間を空けずに刊行できれば……と思っています。

[KAPPA-TWO]第三期の選考結果と、本年中に東川さん以外の三人の著作も刊行予定の[KAPPA-ONE]第一期4人の20周年にも、ご期待ください。

某月某日

阿津川辰海さんの新作『入れ子細工の夜』の重版が決まりました。本作は「本格ミステリベスト10」第1位をはじめ、各種ミステリランキングを席巻した『透明人間は密室に潜む』に続く第二短編集です。お陰様で、刊行当初からSNSなどで多くの言及をいただき、楽しんでもらえているのを実感しています。

そんな中で、本作のオビについて、辻真先さんに「フツーは編集者が読者に呼びかけるスペースなのに、作者をけしかけてるんですか。作者自身が書いたの? まさかね。」と書かれてしまいました。おっしゃる通り、けしかけてますね……。気分としては、リングでラッシュを仕掛けようとしている作家に、セコンドとして編集者がハッパをかけているような感じなのでした。

伸び盛りの若手作家を、もっともっと多くの読者に知ってもらいたい、ならばまずは自分たちが本作のパフォーマンスが最高だと思っていることを表明したら、興味を持ってもらえるのではないか、と思い、それが伝わる惹句を模索していたのです。そして、この本、そんな規格外のオビが映えるような仕上がりになっているとも思っています。

実は、今年の阿津川作品の刊行、これで終わりではありません。まだまだ立て続けにお届けできる予定です。

謙虚で過剰な多読多筆のトリックメイカー・阿津川辰海の全面展開にご注目ください。

某月某日

知念実希人さんと関東近郊の13の書店にご挨拶に伺いました。

新刊『死神と天使の円舞曲』のプロモーションです。すでに4500冊(!)のサイン本を作成し、リクエストをいただいた全国各地の書店には発送していたのですが、できるなら、書店員さんに直にご挨拶し、店頭も拝見したい、という知念さんの意向もあって、スケジュールが組まれました。

「書店まわり」「著者臨店」などと言われるこうしたプロモーション活動、コロナ禍以降、一時期は完全に停止していました。ワクチン接種が進み、各種の自粛が緩和される中で徐々に再開されていますが、かつてに比べると頻度は少なく、慎重にならざるを得ない状況が続いています。あと少しの我慢、とは思うのですが。

今日は久しぶりに多くの店舗に伺え、顔見知りの書店員さんたちにお目にかかり、久闊を叙することができました。慌ただしいスケジュールのうえに、本書と既刊を合わせて200冊を優に超えるサイン本を追加作成してくださった知念さんも楽しそうにされていました。

スピーディな展開とスペクタクルなアクション、そして胸に迫る詩情が読む者を捉えて離さない「死神」シリーズ。幸い重版も続いています。より多くの読者に届くことを願っています。

シリーズ第3作『死神と天使の円舞曲』

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