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もののけ姫を観た日のこと

もののけ姫を映画館で観たあと、みずうみのそばをまっすぐ歩きました。とあるホテルの裏側に面した道でした。巨大なガラス窓のむこうに、食事をする個室が並んでいて、どの部屋にも大きな絵画が飾ってありました。らくだが夕焼けの中の砂漠をゆく絵が一番印象に残っています。やがて厨房の一角が見え、ずらりとならんだ銀色の調理器具が見え、コック帽のてっぺんのあたりが、ふたつほど、見えました。

ベンチに座ってひとやすみしていると、カサコソとした気配があり、それはハトでした。ぐるぐるとわたしのまわりをまわって、背後の植え込みの中に潜り込んでいき、またベンチの下からあらわれました。空を見上げると、ワシがスイーっと飛んでいます。わたしの視界から消えるまで、ひろげたつばさをずっとそのままにして、一度もはばたきませんでした。

草むらの中に立ちました。舗装された道でなく、芝生を踏みしめたかったのです。あまり人が居ませんでしたから、マスクを外しました。水辺のにおいがします。草のにおいもしました。スクリーンの中の、破壊される森と、またよみがえる緑を思いました。人間がいのちを奪い合うシーンと、抱きしめ合うシーンも、心に浮かびました。ちょろんちょろんと葉先を触ったあと、駅へ向かいました。

かえりみち、信号待ちのために目の前でとまった車の助手席に、犬が乗っていました。パチンと、それはもうしっかりと、目が合いました。とても驚いたので、足をとめて見つめ合いました。一度目をそらしてもう一度見ても、こちらを見てくれていました。その犬はうんと小さく、つぶらな瞳をしていましたが、ふわふわの毛並みと、真っ白なところは、あの山犬たちとそっくりだったのでした。

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