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部族の誕生

これからの(日本)社会の大きな変化を詩のかたちであらわしたもの。

***

詩の神々たるミューズたち
今、私に力を与えたまえ
古い世界の痛みに耐える
新しい子供たちに種を与えよ


ネイティブアメリカンは部族社会を持っていた
血のつながった家族があり
家族の姓を束ねる氏族があり
氏族が集まると部族になる

部族ごとに言語を持ち、
文化や慣習は異なり
それが数千もあったと
一説に聞く


近代社会もそのように変わるだろう
新しい部族の世界が誕生する──


近代社会は資本主義とともに始まった
資本主義は国家と会社と私人から成る
法とお金と契約が
三角形を作って
資本主義の社会を構築した

これにより
私人の家庭と
私人を労働力に変える会社と
そして会社を統治する国家が生まれた


とくに日本では
私人は大家族制のもとにあって
ヨーロッパの個人とはちがった
ここが複雑だった

日本の大家族は集住して
村を作った
これがムラ社会、それが転じて
会社になった

いずれにせよ、国民国家は
近代社会の名の下で
ムラと大家族である
会社その他を統治した


その後、大家族制は崩壊し
それとともに私人は核家族となり
私欲に走った。

会社もまたムラであり
大家族でもあったから
これもまた壊れた

今の日本の会社と官庁は
ただ就職者に対する福祉の機関にすぎない
ムラと大家族の名残りが
年金と社会保障の話をしている
それもやがて終わりを迎える

あとには、労働と消費しか残らないのか?

そこで、世界的にも近代社会は崩壊する
近代社会が終わった後で
新しい部族社会が生まれるだろうと私は歌う
それが一つの希望を作っているはずだ


新しい部族のかたち
それは主に血のつながった家族を
ゆるやかに集めながら
氏族に似たちかしいつながりと
部族に似たおおまかな仲間とを
結束させる

そこには血のつながりのない家族
養子もゲイもレズビアンもいるだろう
精神的に近しく、考えが近ければ
法の下にない親しい人々も
大家族を作れるだろう

インターネットは精神的なインフラになった
電脳空間はすでに霊化し
情報を伝えるだけでなく
ひとの心を結び合わせる

また距離は重要でなくなりはせず
共同で住む者が地域を作り
祭りや楽しみをともにする者
仕事をともにする者は会うだろう

こうして離合集散をくり返しながら、部族は成り立つ


ところで、ネイティブアメリカンにはトーテムがある
トーテムは動物の祖先である
たとえば、サケのトーテムを持つ者は
祖先を遡るとサケに行き着くとされる

そのように新しい部族の一人ひとりも
能力や才覚、性質や精神において
トーテムと似たルーツを持つことになる
それらは部族生活において、お互いに補い合う

クマのトーテムを持つ者は
忍耐強く力強い成果を出す
サケのトーテムを持つ者は
河や海を泳ぐように動き続ける

そんな風にトーテムのような根っこが
土地も先祖も異なる部族生活のなかで
それぞれのひとを孤立させずに
縦の継承と横の協力を生み出す


これ以上は今日の歌ではない

もう十分に語りすぎたほどだ

おやすみ、ワタリガラスのおじいさんよ
物語の落とし物はこれでたくさん


語り部にも夜が来る
そして、部族には夜明けが来るだろう

来たるべきもの、いや
待たれているものは神話である

新たな世界の地平線を支える
世界の礎を築く神話である





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