ナウシカアの帰還(1)
海の吟遊詩人、ナウシカアをめぐる神話的なお話の続き。始まりはこちら。
新しい年の始め、ナウシカアが日本に帰って来る。
函館の大森浜で待つことにした。
冬の北海道は砂浜も白い。
カモメが空を飛び、
ウミネコの鳴き声が聞こえる。
石の上に座り
かたわらに木刀を突き立て
ウクレレのケースを背負ったまま
沖を見る。
──2021年の終わりに突然、一年間使い続けてきた鋼の剣が折れた。折れてバラバラになった。
ロゴスの剣という名で
たとえ権威の衣を着て威容を誇る者も
真っ二つに斬る力を備えていた。
僕の場合は防戦に使うことが多かった。
何度も超重力の砲弾に耐え
二三度は権力の中枢に
斬撃を打ち込んだつもりだった。
そして、年の終わり頃にはより大きな一撃を加えるべく、ぎりぎりと柄を握り締めていたのだが、そこで突然、ロゴスの剣は粉々になって、僕は身一つで残された。
それで良かったんだろう、と思う。
今は修練に使っていた木刀──誰にも、触れたりはしない──だけを持っている。
遠く水平線に帆影が見える。
「来た」
ナウシカアの船だ。いつ以来だろう。それとも初めてのことなのか。
僕は静かに船の到着を待つ。
こちらに続きます。
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