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フレンド

あいつに会いたいな、と久しぶりに思っていた。このひと月、いろいろと考えるところもあって、昔の友人たちに再会したい思いが強まった。なかでも二十歳前から知っている、Iに会いたいと思った。

「今、たまたまKの地元にいるけど、駅周辺にいたりしない?」
メッセージが入り、「〇〇時に行くよ!」とすぐに返事をした。Iだ。

引き寄せの法則かな。いいタイミング。自宅で家事と仕事をしていたが、すぐに出かける支度を済ませた。

本屋で待ち合わせる。彼とはよく本屋を歩いた。大学時代から、僕が知る中で1番か2番に優秀で、まじめで人柄もよかった。本が好き、美術館も好きで趣味が合った。

ふたりでスタバに入った。

「さっきまで、この本の著者と会っていたよ」
彼が見せてくれた本を開くと、「吟遊詩人」という言葉が目に入る。
「アフリカでは口承が盛んだから、吟遊詩人が出てくるんだよ」

それから、Iがイェイツの名前を出したので、ちょうどイェイツ関係の仕事を手がけていること、以前にもらったラフカディオ・ハーンの本がとてもよかったこと(「ラフカディオ・ハーンは吟遊詩人だよね」とIは言った)、ケルトと縄文は似ていることなどを話した。

「この街はすこし変わったね。なんかいい街だな。Kがこの街を好きなのがよくわかる気がする」とIは言った。子供の頃、Iはこの街に住んでいたことがある。

こんな風にIとは共通点も多いけれど、ちがっているところもある。Iは大きな企業に就職し、望む部署に行き、学問を修め、海外を旅行し、出世し、立派な家を建て、家族で穏やかに暮らしていた。

そういったものをなにひとつ持たなかった僕は、二十歳を過ぎ、社会的に多感になるにつれ、何度もIに嫉妬を覚えた。しかし、不思議と今はそういう葛藤もなかった。

「コンビニでバイトをしようと思ってるんだ」
僕が言うと、Iは静かにうなずいた。

Iが、最近仕事で関わった本の話をした。「よかったら、Kにもあげようかと思うんだけど…」「あ、それKindleで買ったよ」「なんだ、そうなの」「柿本人麻呂について書かれているところがよかった〜彼も編集の仕事をして、和歌を編んでいたんだね」「Kは、今は柿本人麻呂が好きなの」「柿本人麻呂やホメロスのようになりたいんだよ」「はは」

いろいろ話を聞いてもらった。「この一年は、詩で権威と戦っててさ…」「うん。でも、権威も使いようというか、資本主義のシステムや市場原理が一番問題である気がして、権威によって、それに対抗することもできる…」「わかる。そうなんだよね」

スタバを出た。

街を歩いていると、Iが言う。「Kは街で声かけられたりしないの?有名人なんじゃ」「有名かはわからないけど、つばひろ帽に赤い羽を差してよく歩いてるからなあ」そりゃ、目立つねえ。

また会おうとお互いにくり返し言って、Iを見送った。


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