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山を登る

先日、恋人と有田マラソンのペアマラソンに参加してきた。私は仕事でもプライベートでも、よく考えずに返事をしてしまうところがある。このペアマラソンも、数ヶ月前によく考えずに参加することを決めてしまったイベントだった。

風邪をひく、仕事が多忙など、2月はコンディションが最悪な日々が続いていた。だから、直前になってパスしたい気持ちになった。

けれど、楽しみにしている彼に断り辛い気持ち半分、彼の好きなことを行いたい気持ち半分。悩んだ末、参加することにした。

意気揚々としている彼とは違い、げんなりモードな私。スタート地点に着いてもなお、「ウォーキング部門」「親子マラソン(2km)」のゼッケンをつけている人を見て、「私もあっちが良い。」とボソボソ呟いていた。

これまで彼と10km、16kmの大会に出たことがある。弱音は吐いているものの、経験もあるし大丈夫だろうと思っていた。しかし、甘かった。

前を走る人たちについていった先に見えたのは、坂。

(うぇ?坂?)

驚いた。コースも調べていない私も私だが、有田マラソン大会の運営の方も運営の方だ。こんな坂道を登らせるのかと、引き戻したい気持ちになってしまった。しかし、そんな訳にもいかない。

とはいえ、最初は余裕だった。彼に対しても「坂か!」なんて言いながらヘラヘラと笑っていた。けれど、体力も笑顔も長くは続かなかった。

登れど登れど、坂。 坂、坂、坂。

わたくしのぽよぽよボデイは、坂道を、しかも走って登れる設計になっていない。恥ずかしいが、1kmの地点で限界を迎えた。残り9km。

異変に気づいた彼は、声を掛けてくれた。「大丈夫?」と。(大丈夫じゃねえ)大丈夫じゃねえけれど、走らない訳にもいかない。「大丈夫ぅぅぅ。」と言いながら、走った。

それでも前に見えるのは、坂。その先に見えるのも、坂。そして側道の看板には「2km地点」(待って、あと8kmもあるのかよ…)早い段階で絶望に近い気持ちになった。それでも進もうとする私に更なる試練が襲う。

雨。

坂の時点でお腹いっぱいだった。そこに恵みの雨。ありがたいけれど、今は違う。そんなクレームが天に届くはずもなく、仕方なく走り続けた。

彼は余裕のよっちゃんだ。「給水所はみかんジュースがあるらしいよ!」なんて呑気に話している。こちらは今雨という水分にうんざりしている最中なので、次なる水分の話はどうだっていい。

そんな私を見て、彼は更に明るい言葉をかけてくれた。けれど、「もうすぐ下り坂だよ!」と言われても、下ってもまた登らなあかんやんけと思えてくるし、もう何を言われてもダメだった。

励まされると励まされる分だけ、辛くなった。私の心にも暗雲が立ち込んだ。

そんな私を置いて、周りのランナーたちは互いに声援を掛け合っていた。折り返してきた先頭集団に「頑張れ〜!ナイスラン〜!」と。私の後ろを走る方からも、底抜けに明るい声が聞こえた。

その瞬間、情けなくなった。自分のことで精一杯、誰のことも応援できない自分に。隣で声をかけてくれる人にすら、言葉を返せない自分に。雨か涙か、流れた日焼け止めか分からない液体に目が染みて痛くなった。涙を溜めながら、走った。

走り続けるといつかはゴールにつく。これは、小学校のマラソン大会で気づいたことだが、大人になっても同じだった。彼を無視しながら、目を潤ませながらだったが、走り続けたのでゴールが見えてきた。側道からの応援も増えた。

私の心と連動しているのか、雨もあがった。雲の隙間から、光が差した。その頃、ようやく彼に返事ができた。ゴールを前に「頑張って良かった。今、気持ちが良い。」と。

不機嫌になってしまったから、気まずかった。
そんな状況を知らないはずなのに、「ペアマラソンの方は手を繋いでゴールをしてくださ〜い!」と運営の方!距離を詰められるルールの告知をありがとう!選んだコースは鬼だったけれどね。

参加賞

✳︎

彼と一緒に住む家を探してきた最近。色々迷いがあった。本当に大丈夫かなんて誰にもわからない。しかし、私が無言になっても、明るく前向きな声かけを続けてくれる彼と完走して、この人とならきっと大丈夫だろうと思えた。

彼は、私がどれだけ辛そうでも歩こうとはしなかった。時々振り返りながら、私の少し前を走り続けた。その背中を見ていると、なんだか自分を信じてもらっているようで嬉しかった。

最近、彼が日常生活で行き詰まったとき、私は同じような態度を取れなかった。必要以上に干渉しようとしてしまった。私も同じように信じて、時々振り返りながら前を走り続けたら良かったのに。「きっと大丈夫だよ。」ただそれだけ伝えられたら良かったのに。そんな反省を伝えた。

道中は明るく声をかけ続けてくれたけれど、腹がたってしまった話も正直にした。態度で示せる時には、言葉が必要なくなる時もあるのかもねと話したりなんかもした。

そのあと、最近の心境を話してくれた。行き詰まっている日常のその後の話。「この話は何かの言葉が欲しい?」と聞いたら、「いらない。」と言っていた。

それを聞いて、手を繋いでみた。今度は自分から。マラソン運営委員の方からの指示を受けずに。繋いだ手に「きっと大丈夫だと思うよ。」と念を込めた。

態度で示せるような人になりたいと思う。その人の力を信じて「大丈夫だよ。」って言える人にも。自分がしんどい時にも、周りを気遣えるような大人にも。

追記

帰り道、ポケモンが好きな友達から教えてもらったBUMP OF CHICKEN×ポケモンの歌がふわっと頭の中を流れた。

転んだら手を貸してもらうよりも 優しい言葉選んでもらうよりも 隣で信じて欲しいんだ どこまでも一緒にいけると

BUMP OF CHICKEN アカシア

なるほど言葉が通じないサトシとピカチュウはお互いの態度で繋がっているんだなぁ、すごいなぁなんて思ったりした。まさか30歳手前にサトシ×ピカチュウを尊敬する日が来るなんて。大切なことって意外と小さい頃から知っていたりするもんね。


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